いつか羽化する、その日まで
「お、美味しい……!」
注文した担々麺が運ばれてきてからものの十数秒で、私はすっかり虜になっていた。
隣では、思わず漏れ出た私の独り言を聞いた村山さんが満足そうにしている。
「でしょ。この肉味噌と胡麻油の風味がたまらないよね」
「はい。麺と絡んでとても美味しいです!」
「だよねえ」
勝手に注文した村山さんに対して沸いていた怒りの感情も、目の前の湯気と一緒にすっかりどこかへ飛んでいってしまったようだ。
今はただ、ひたすら食が進む。
「この前から思ってたけど。サナギちゃんて、ホント美味しそうに食べるよね」
そんな言葉をかけられて我に返った私が隣を見ると、村山さんは手を止めて完全に私を見ていた。恥ずかしさから慌てて紙ナプキンで口元を拭う。
「食べてるところを見ないでください!」
「あれ、照れてる?」
「照れてません!」
前に小林さんにも同じようなことを言われたのに、どうしてこうも違うのか。
隣からまた聞こえ始めた麺を啜る音。
それを聞いた私の胸に広がる、妙な安心感は一体何なのだろう。
「ん、どうしたの? 冷めちゃうよ」
箸を持ったままぼんやりしていた私が、ふと横を見ると。たまに覗かせる優しい色をした目が、私の視界の端に映った。