いつか羽化する、その日まで
「ふう。お腹いっぱいです」
ーー美味しさに負けて汁まで飲み干してしまった……!
膨れたお腹をさすりながら、村山さんと店を出た。最高潮の時間帯に向けてますます日差しと気温が増加する中、営業所へと戻る。
担々麺を食べたからなのか元からこうだったのか、先ほどから汗が止まらない。隣を歩く村山さんも「あちー」と漏らしながら、首筋やら額やらをハンカチで拭っている。
何か忘れているような気がしていた私はあることを思い出し、思わず声を上げた。
「あ! まだ、作戦会議してません!」
営業所を出る前に、村山さんが言っていたことだ。次の外出に関わる大事なことなのかもしれないと身構えていると、村山さんはぽかんと口を開けた。
「ええ? さっきしたでしょ、サナギちゃんの恋バナ」
さも当然と言わんばかりの態度に、私は大いに慌てた。恋バナって。
「なっ……何言ってるんですか! 言っておきますけど、これは村山さんが思っているようなことじゃありませんから。
……さては、ラーメン食べたいからってテキトーに口実を作っただけですね?」
「……いいじゃん、奢ったんだからさ」
「開き直らないでください!」
もちろん黙って奢られたわけではない。自分の分は自分で払おうとしたのに、自分が勝手に頼んだのだからと全く譲ってくれず、挙げ句の果てに「出世払いでいいよ」と取り合ってくれなかったのだ。
「ほらほら、そうカッカしないで。余計暑くなるよ」
村山さんの、思いのほか頑固で意志を貫き通すところがあるという、新しい一面を知った昼休みだった。