番犬男子
目の前では、強盗犯が腕を振り上げていた。
「んだよ、起きたのかよ。タイミング悪ぃな」
チッ、と盛大に舌打ちされた。
そう?
むしろ、タイミングばっちりだったと思うけど。
「まあいいや。こいつを甚振るよりもっと楽しいことが待ってんだからな」
わざと陽気に言った強盗犯は、あたしから離れ、壁に寄りかかった。
バイク男があたしを一瞥する。
「お前も待ってろよ。正義のヒーローが現れる瞬間を」
ククッと喉を鳴らして、遠まわしに皮肉る。
強盗犯もバイク男も、現れた正義のヒーローを人質で脅して潰す作戦に、随分と自信があるようだった。
あたしが人質としての役割を全うすると、1ミリも疑っていないようだ。
そんなこと、ありえないのに。