番犬男子




数回、深呼吸をした。


冷静さを滞りなく循環させる。



壁に寄りかかって、仲間と双雷が早く来ないかと言いたげに足を揺すっている強盗犯を、伏し目がちな視界の端っこに映す。




ほんの少しでいい、強盗犯があたしから視線を避けた、その瞬間が合図。



ぎりぎりまで違和感を抱かせてはならない。


こちらの作戦を悟らせてはならない。



見計らった逃げ時は、必ずやってくる。




強盗犯の視線が、ゆらり、あたしを捉えて。


そして、またゆらり、あたしを放した。




――逃げる、合図だ。




あたしは手に持っていた石を、シャッターとは真逆の、かつバイク男のいる位置とも真逆の方向に体勢を変えずに勢いよく投げた。


地面に石が転がる音は、本当は小さいのに、反響のせいでやけに高らかに響く。



強盗犯、バイク男の順に、反射的に音のしたほうへ反応した。




「今の音はなんだ!?」



強盗犯が慌てた声を発したと同時に、あたしは立ち上がって駆け出した。



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