番犬男子




足を止めざるを得なくなって、歩くのをやめたら、「千果さん」と再び呼ばれた。



「……幸汰」



あたしの左手首をきつく、それでいて優しく握る幸汰が至近距離にいて、視界に熟れた顔が鮮明に映る。


あたしの顔も、たぶん、真っ赤。



「い、今のは……」


「挨拶のキスじゃないよ」



何、と聞くあたしの呟きを、幸汰がわざと遮った。



アメリカでは友達と挨拶のキスをするのは珍しくもなんともないはずでしょ?


なのに、こんなに、唇の柔らかな感触が頬に残っているのは、なぜ?



初めてで、戸惑う。




本当は、あたし。

理由に気づいてる。




「千果さんのことが好き、っていう意味の、キ、キス……です」




照れ隠しに丁寧な語尾を付け足して、だんだんと弱まっていった声色とは裏腹に、幸汰の表情はどこまでも真っ直ぐで。


心臓が、また、くすぐったそうに跳ねた。



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