番犬男子





「そ、それじゃあ!」



最後なのになんて投げやりな締め方なんだろう。


最悪だ。



でも。

幸汰ともっと一緒にいたいと思ってる反面、逃げたい衝動にも駆られるんだ。


どうしてだろう。




とにかくこの場をあとにするため、早足で歩き出す。


距離が遠ざかるにつれ、心拍数は上がっていく。




「千果さんっ!」



背中に、あたしを引き留める声が投げられた。


直後、左手首を掴まれ、強引に振り向かせられる。



え?



ふわっ、と左の頬に触れる、唇。


それは一瞬で離れて、あたしの胸を締め付けた。




誰の唇か、なんて、すぐにわかった。



< 572 / 613 >

この作品をシェア

pagetop