番犬男子
――ズン、とついさっきのシーンが、脳裏を重く侵食した。
『お前は、誰かに傷つけられたこと、あるか?』
俺と千果。
並んで帰る、道の途中。
歯切れ悪くそう尋ねた。
その時、あいつは何も答えなかった。
答えたくなさそう、ではなかった気がする。
ただ。
……何かを、思い出していた。
思い出して、泣きそうにしていた。
きっとそれが、あいつの秘密だった。
そして、今。
先ほどの質問の答えが、ようやく明らかになった。
『あたしのせいで、負った傷なの』
そう、か。
千果も、そうだったのか。
幼なじみのあいつと、同じ。
傷をつけた側の、人間。
左目が小さく疼く。
痛い。
なんで痛いのか、探すことすら諦めた。
驚愕と困惑の視線が、千果に集まる。
視界には、隣の誠一郎も否応なく捉えていた。
もちろん、誠一郎の額にある、イナズママークの傷痕も。
絡まる、空回る。
何が?……きっと、真実が。
俺たちは、何を、手繰り寄せているんだろう。
『お前だって、もし自分が誰かに傷を負わせちしまって、それを見たら、辛くなんだろ?』
『……うん、そうだね。あたしも、幼なじみの子と同じ、かな。あたしのせいだって、辛くなる』
辛かったのだろうか。
今も辛いのだろうか。