番犬男子




それがどれだけ勇気のいることか、俺には痛いくらいわかる。わかってしまう。


だから、余計に。

苦痛にもがく姿を、これ以上見たくはなかった。



傷つけて、傷つけられて。


痕として残った“罪”と“罰”を、誰が忘れさせてくれる?



――否、忘れるなんて、不可能だ。



おそらく、一生。


だけど、それは、想い合ってるから。




なあ、千果。

そうなんだろ?



お互いの「好き」のせい。


もし本当にそうなのだとしたら。



苦しくないと言い張る嘘が、少しは嘘じゃなくなる。




だから、さ。

千果。


やめろよ、そんな顔すんの。



お前の苦しさ、わかってやるから。


俺にできるのなら、お前の苦痛も嘘にしてやるから。



いつもみてぇに笑えよ。




俺の口から、それこそ嘘のような熱い本音がこぼれる刹那。



「っ、あ、あの!」


勢いよく立ち上がったのは、幸汰だった。



「ち、千果さん」



先越された。

漏らしかけた舌打ちに、我に返る。



……は?先、越された?


なんで、俺、んなこと思ってんだ?おかしいだろ。




「買い忘れてる物があるよ!」


「……え?」



ポカンと口を開ける千果に続けて、俺と雪乃と誠一郎と遊馬も首を傾げた。



幸汰のやつ、何言ってんだ?


買い忘れって……買う物なんか茶葉だけだったろうが。逆にそれ以外何があるって言うんだ。




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