番犬男子





「今から買いに行こ!」


「え、ちょ、幸汰!?」



誰かが口を挟む隙も与えず、幸汰は千果の手を強く引いた。


急かしながら連れ出されていく。




何か言い残すことなく、2人は幹部室の扉の奥に消えた。





バタン。

乾いた音が反響する。


締まり切った扉を、俺たちは呆然と見据えていた。




モヤモヤとした形容しがたい感情に苛まれる。


……やっぱ、意味がわからねぇよ。




淡々とした静寂を、



「……まさか、ここでコウちゃんが動くとは、ねぇ」



ただ一人、雪乃だけが切り裂いた。


しかも、優美な微笑み付きで。



こいつ、なんでこの状況で笑ってやがる。


ついさっきまで、俺みてぇに動揺してたくせに。



「あら、ロウちゃん、何か聞きたそうな顔してるわね?」


「……チッ」



さっき喉元に引っかかった舌打ちが、今発砲された。



肯定と汲み取り、雪乃は呆れながら笑った。


瞳が、俺から誠一郎のほうへ移される。



「ねぇ、セイちゃん」


「……っ、ん?」



数秒ずれた反応。


今もなお戸惑っているのが、手に取るようにわかる。



「その額の傷痕って、どうしてできたの?」



千果と知り合う前……たぶんずっと昔に、誰かが尋ねた気がするが、覚えていない。


記憶にないということは、それほど大した原因ではなかったということだろう。




だが、おかしい。




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