番犬男子
「こ、これは、確か……小学生の頃に転んで……」
誠一郎も違和感に気づき、唇を閉ざした。
転んで……?
「それって、千果のせいで、か?」
「いや、あいつは関係ない……はずだ」
遊馬の問いに、曖昧に答える。
いつになく自信なさげだな。
考えてみりゃ、当たり前か。
妹というあやふやな関係図でさえ、まともに信じられてないんだから。
もしも。
本当は千果のせいだとしても、なぜ……
なぜ、誠一郎は千果を憶えていない?
なぜ、千果はあんなに泣きそうだった?
なぜ、誠一郎は傷痕に引きずられていない?
あぁ、ほら、やっぱりおかしい。
辻褄が合わない。
まるで、下手くそなアリバイに騙されているようだ。
嘘をついているのは、一体、誰?
「いっ……、」
不意に、誠一郎が額を抑えた。
弱く悶える姿に、雰囲気が張りつめていく。
「セイちゃん?」
「だ、大丈夫か!?」
「顔、青白いぞ?」
想起する。
千果と初めて出会った、あの雨の日を。
あの時も、誠一郎はどこか痛々しく、苦々しく、切なそうにしていた。
「…………大丈夫、だ」
長い間があったじゃねぇか。
全然大丈夫そうに見えねぇぞ。
こんな時に何を強がってるんだ。