番犬男子




幸汰は縮こまっていた肩をぴんと張り、「は、はい!」と返事をした。



「……そうか」


ならよかった、と。

軽く瞼を伏せた誠一郎に、千果はきゅっと唇をかみ締めた。




「相変わらず、わたしたちの総長は優しいわね」


「この場合は、味方に甘い、だろ」


「ふふっ、確かに。そうとも言うわね、ロウちゃん」



温かな眼差しで2人を見守る雪乃も、十分優しいと思うがな。


というか、双雷自体、仲間を大切にし過ぎなんだ。



その反動で、敵にはちょいとばかし厳しい。


警戒心旺盛なのもそのせいだ。





「かき乱して、ごめんね」


ポツリ。

か細い呟きが、高く、響く。



未だに潤んだ眼が、やけに透明に澄んでいた。


両目の裏に、雪景色が浮かぶ。



あぁ、そうか。

あの透明は、雪の色に似ているんだ。



「さっきのこと気にしないでとか、忘れてとか、そんなこと言えないし、言わない。けど、額の傷痕があたしのせいでも……やっぱりね、お兄ちゃんのことが大好きなの」



千果は罪悪感でいっぱいの表情から、すぐさま明るい笑顔へと作り変えた。



「お兄ちゃんを、もう、傷つけたくないの」



へらりとほころばれてしまえば、誠一郎は何も言えなくなる。




雪乃も、遊馬も、幸汰も、もちろん俺だって、踏み込む覚悟はとうの昔にできているというのに。


当の本人は――当事者“たち”は、手を伸ばすだけで、引っ張りはしない。




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