誰もいなかった。

家具はそのままだけれども、その中に豪と彼の母親の姿は見当たらなかった。

「豪くん…?」

ひかるはその中に足を踏み入れると、首を動かして辺りを見回した。

「豪くん、どこにいるの?

ねえ、どこにいるの?」

動物園に行こうって約束をしたじゃない!

クラスメイトたちが修学旅行に出かけている間は、一緒に出かけようって約束をしたじゃない!

「豪くん!」

ひかるは叫んで、豪の名前を呼んだ。

豪は出てこなければ、返事もしなかった。

ここにいるのは自分1人だけだから、当然のことである。

「動物園に行こうって、指切りげんまんしたじゃない…」

ひかるはそう呟くと、豪と指切りをした小指を見つめた。

その数日後に、ひかるは黒田家が夜逃げをしたことを知った。

 * * *
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