「私は、今のあなたが嫌いです」

はっきりと、それも躊躇することなくひかるは言った。

「今のあなたは、欲しいものを買ってもらえなくて駄々をこねている小さな子供と一緒です」

ひかるは伊崎の顔をじっと見つめた。

芯が強く、たくましい女性だと伊崎は思った。

「伊崎さんには、伊崎さんを好きだと言ってくれるいい女性が現れます。

だから…もう私にこだわるのはやめて、あきらめてください」

そう言ったひかるの言葉は、静かに伊崎の胸に落ちた。

自分を見つめる意思の強い瞳に耐えることができなくて、伊崎は目をそらした。

(――本当に僕が欲しいものは、手に入らないんだな…)

心の中で、伊崎は呟いた。

どんなに手を伸ばしても、どんなに卑怯な手を使っても、自分が欲しいものは決して手に入らない。
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