友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

第2節


週末、琢磨の宣言通り、結婚式用のワンピースを買いに出かけた。

なんど固辞しても、琢磨は一方的に「サーモンはだめ。俺が買ってやる」と言ってきかない。

ついにはのぞみが折れて、琢磨のいうがままのワンピースを買ってもらった。

冬が一歩ずつ近づいてきている。
街ゆく人たちは、それぞれ厚手のコートに身を包んでいた。

大きな紙袋を持って、銀座でランチ。

「わたしが奢る」

今度はのぞみがそう言い張った。

ワンピースは、サーモンのなんと二倍の値段だったのだ。
お昼ぐらいご馳走しておかないと。貰いっぱなしじゃいけない。

「じゃあお言葉に甘えて」
琢磨が殊勝な態度で、頭を下げる。

「何がいい?」
「何でもいいけど。のぞみは何食べたい?」

のぞみは紙袋を手に、腕を組む。

「カツ丼かな」
「期待を裏切らないチョイスだな」

琢磨は笑う。

「でも、俺もカツ丼、食べたい」

二人で、小さな蕎麦屋に入った。
鰹だしのいい匂いが店内に広がって、ちょっと高級な蕎麦屋だとわかった。

のぞみは自分の財布の中身を思って、少々心細くなる。
でも琢磨にそれを気取られてはいけない。

店内奥側の半個室。
二人とも、一人前1500のカツ丼を頼む。

でものぞみは運ばれてきたカツ丼を見て、心底がっかりした。

身を乗り出して、声をひそめる。

「ねえ、これでお腹たりる?」
「足りるよ」
「小食だねえ」

のぞみは信じられない。
小さな丼に小さなカツが乗ってるだけ。
3分で食べ終わる。

あからさまにそんな顔をしていたのか、琢磨は笑い出した。
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