友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

琢磨は大股でトイレへ向かった。
乱暴に個室のドアを閉めて鍵をかける。

胃がムカムカする。

琢磨は、思い切りドアを殴った。

ドガンとひどい音がして、ドアが激しく揺れる。

一度殴ると、堰をきったように、後から後から感情が込み上げてきた。
二発、三発と殴ったあと、激しく痛む拳を開いて、頭をかきむしった。

知らなかった。
気づかなかった。
あの二人がそんなことになってたなんて、想像もしなかった。
だってそうだろ?
のぞみはいたって普通だった。
友達としてセックス?
なんだよ、それ。

『知られたくなかったのに。琢磨には、自分の女の部分を知られたくなかった。絶対に』
のぞみが涙ながらに叫んだ言葉を思い出す。

大崎は見たんだ。
のぞみの「女」の部分を。

カッと頭に血が上って、もう一度ドアを殴った。

肩で息をし、なんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返した。

しばらくすると少し冷めてくる。

琢磨は、個室から外へ出た。
誰もいないトイレにホッとする。
それから鏡で自分を見て、その顔に驚いた。

真尋の裏切りがわかったとき、何度もこの顔を鏡で見た。
誰かを本気で殺したいと願うときの、醜悪な顔だ。

慌てて冷たい水で顔を洗う。

紙タオルで顔を拭い、もう一度鏡を見る。

今度は絶望している顔。

—もういやだ。
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