友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
新幹線の規則正しい揺れを感じながら、のぞみは目を閉じた。
眠るつもりはない。
昨夜は、久しぶりにちゃんと眠れたのだから。
琢磨と同じ空間にいないということが、これほど気の抜けることだったのかと、自分で驚いた。
のぞみは目を開けて、ちらっと琢磨を見る。
琢磨は向こうを向いている。
耳の後ろ側がこちらに見えた。
のぞみは小さな息を吐いて、両手を強く握り合わせた。
体温がそばにあるだけで、緊張する。
存在を常に意識している。
もし少しでも触れようものなら、またあの熱が体を支配してしまうだろう。
あの風邪。
直すのに、少し時間がかかりそうだ。
ふと、琢磨の手に目がいった。
右手の手の甲が赤く、擦りむけているように見える。
「ねえ、どうしたの、そこ」
のぞみは身を乗り出し、そっぽを向く琢磨の顔を覗き込んだ。
琢磨は自分の手を見て、それから「別に」とまたそっけない返事をした。
のぞみはむっとしたが、手の甲に血がにじんでいるのを見て、つい「絆創膏あげよか」と声をかける。
琢磨がこちらを向く。
その視線に、思わず身がすくんだ。
こんなに体温を感じない瞳は、はじめてだ。
「な、なによ」
「別に……」
琢磨はまたそう言うと、完全にのぞみをシャットダウンした。
腕と足を組んで、まるまるようにして目を瞑る。
のぞみは口をへの字にして、琢磨と反対向きで同じように腕を組んで丸まった。