友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

新幹線の規則正しい揺れを感じながら、のぞみは目を閉じた。

眠るつもりはない。
昨夜は、久しぶりにちゃんと眠れたのだから。

琢磨と同じ空間にいないということが、これほど気の抜けることだったのかと、自分で驚いた。

のぞみは目を開けて、ちらっと琢磨を見る。

琢磨は向こうを向いている。
耳の後ろ側がこちらに見えた。

のぞみは小さな息を吐いて、両手を強く握り合わせた。

体温がそばにあるだけで、緊張する。
存在を常に意識している。

もし少しでも触れようものなら、またあの熱が体を支配してしまうだろう。

あの風邪。
直すのに、少し時間がかかりそうだ。

ふと、琢磨の手に目がいった。
右手の手の甲が赤く、擦りむけているように見える。

「ねえ、どうしたの、そこ」

のぞみは身を乗り出し、そっぽを向く琢磨の顔を覗き込んだ。

琢磨は自分の手を見て、それから「別に」とまたそっけない返事をした。

のぞみはむっとしたが、手の甲に血がにじんでいるのを見て、つい「絆創膏あげよか」と声をかける。

琢磨がこちらを向く。

その視線に、思わず身がすくんだ。
こんなに体温を感じない瞳は、はじめてだ。

「な、なによ」
「別に……」

琢磨はまたそう言うと、完全にのぞみをシャットダウンした。
腕と足を組んで、まるまるようにして目を瞑る。

のぞみは口をへの字にして、琢磨と反対向きで同じように腕を組んで丸まった。
< 86 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop