友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

指定席券を買っていた二人は、大崎よりも早い時間の新幹線に乗った。

「連絡すっから」
大崎が歯を見せて笑い、手を振る。

「うん」
のぞみは閉まるドア越しに、手を振り返した。

琢磨は何も言わない。
大崎と会ったとき、あんなに嬉しそうにしていたのに。

「もっちゃん、素敵だったね」
席に座りながら、琢磨に話しかける。

「ああ、だな」
そっけない返事。顔に表情もない。
どこか虚ろで、友達の幸せを祝福した帰りとは思えない。

「ねえ、どうした?」
のぞみは気になって尋ねた。

「別に」
琢磨はコートを脱いで、バッグと一緒にしまった。
そのままドスンと席に座る。

「なんだよ、もう」

琢磨の機嫌の悪さに、のぞみは腹が立ってくる。
もっちゃんの幸せそうな笑顔が、琢磨の不機嫌さで霞んでしまいそうになった。

のぞみは話しかけるのをやめて、窓際で足を組んだ。

もっちゃんのドレス姿を思い出す。

「広島の人と、どこで知り合ったの?」

のぞみは不思議だった。
もっちゃんは地元からでないような気がしていたからだ。

「ネット」
なんてことはないように、もっちゃんが笑った。

「マジ? それで結婚?」
「うん、結婚したいって思って、こっちまで押しかけちゃった」

もっちゃんの恋愛に関する行動力は、相変わらずだ。

「芹沢は? どうなの」
「なんもないよ」
のぞみは諦めたように首を振る。

するとドレス姿のもっちゃんは、目を輝かせて顔を寄せてきた。

「今日、桐岡と大崎、来てんじゃん。どう?」
「どうもこうも……。友達だしね」

のぞみが言うと、もっちゃんは大きなため息をついた。

「芹沢は相変わらずだ。全然変わんない」
「余計な御世話だよーだ」

のぞみが言うと、もっちゃんが大きく笑った。

「まあでもわかんなくもないなあ。高校って、人生の中でも特別な時間だからね」

まつげの長いもっちゃんが、目を細める。

「恋愛にしちゃうと、あの時代の、ただ純粋でいられた自分の記憶が、汚れちゃうような気もする。恋すると、どうしてもドロドロしちゃうから」
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