アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~
第5章 守りたいもの、守るべきもの

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―――――――…


『――当初王族にかけられた〝呪い″は、シエルが術者ではないかと疑われた。なぜならシエルにだけ呪印が現れず、そしてシエルは歴代の中でも最も力のある魔力を持っていたからだ』

 レイズの部屋の窓枠で、白いカラスからは力ない声が聞こえてくる。
 あたしはベッドに横たわりながら、ただ黙ってその声に耳を傾けた。
 それ以外のことが、今のあたしにはできなかった。

『理由も対処法も殆ど分からないまま呪いだけが城を#蝕__むしば__#み、そしてとうとうおれとシエルとの王位争いにまでなった。…時期が悪かったとしかおれには言えない。それすら仕組まれたと言い出す者まで出てくる。シエルを糾弾する声は止まず、城の惨状に恐怖した臣下たちはシエルに断罪を求めた。シエルが術者という証拠すら無い中、シエルに極刑がくだった。当時のおれはまだ何の力も持たず…リズの口添えも借りて、なんとか国外追放で場を収めるしかできなかった』

 あの後アズールからの襲撃者3人は風のように消え、船も船員達もみんな無事だった。
 それはきっと、喜ぶべきことだ。
 ただ彼らの残した爪痕が、あまりに大きすぎて。

『シエルの魔力は、リズが可能な限り封じたはずだ。国境には少なからず結界がある。アズールにそれほど優秀な魔導師が居るとは認識していない。なぜならこの海で一番神の加護を受け貴石を保持し、魔導師を多く生み出しているのがこのシェルスフィアだからだ』

 なんとなく想像する。
 きっとこの向こうでシアはまた、泣きそうな顔をしているんだろう。
 だけどそれを簡単に晒すことは、彼には許されない。

『…なのに、どうしてシエルが…』
「…シア、あたしにもまだ、よくわからないんだけど…魔導師だと名乗ったリュウには、トリティアと同じ、神さまがついてるんだって」

 あたしは指一本動かせず、口だけでそう伝える。
 今のあたしはまるで自分の体ではないみたいに体が重くて、口を動かすのもやっとだ。

『…なんだと?』
「前、言ってたでしょう? “同じ世界の者の気配は同じ世界の者にしか分からない”って。そう、言ってる」
『…シエルはマオも、狙っていた。それはつまり、マオの中にトリティアが居たからだということか…?』
「…たぶん…」
『…だとしたら、シエルは…いや、アズールは…』

 遠くに居るはずのシアの声が、震えている。
 シアの想像したこと、言わんとしていることがイヤでもあたしにも分かった。

『シェルスフィアが解放した神の力を狙っているのか……!』

 おそらくそれはもう、始まっている。
 多分あたしなんかには見えないような所で、だけど確実にこの海に広がって。
 行き着く先は、ひとつだ。

「…でも、シア…その、アズールの王女さまとの婚姻を断ったら、戦争になるかもしれないって、わかっていたんでしょう…?」
『…受けていたとしてもシェルスフィアはなくなっていた。婚姻の条件として提示してきたのは、シェルスフィア王権の剥奪だ。アズールはもとよりこの国を滅ぼす気だ。第一王女との婚姻など、シェルスフィアに戦争を仕掛けるのに体(てい)の良い口実が欲しかったとしか思えん。その上…っ』
「…その上…?」
『…いや、とにかく。シエルが今アズールに居るというのは、あまりにも想定外な事態だ。しかもシエルがアズールの王となり、シェルスフィアと戦争をしようなど…!』

 兄弟で、戦うことになる。
 しかも国と国民の命をかけた戦争だ。
 あたしの想像だってはるかに超えてる。
 だから多分、イマイチ現実感が掴めない。
 今自分が居るこの国で、戦争が起こるなんて。
 とてもとても、大変なことなのに。
 頭が追い付かない。ついていかない。何も、考えられない――…

「…シ、ア…ごめん…限界みたい…」
『…! マオ?』
「体が、もう…」
『…いや、いいんだ。ゆっくり休め。疲れていたのにムリをさせて悪かった』

 シアのその声を最後に、あたしの思考は深い所に沈んでいった。
 その感覚はこの世界にきた時と似ている気がした。

 あたしは結局トリティアと、“契約”を交わしたらしい。
 あの後短剣はもらったままの短い刀身に戻っていて、それと同時にあたしは立っていられない程の激しい疲労感に襲われた。
 部屋まで運んでもらって、シアと少しだけ話しをして。
 だけどそれも長くはもたなかった。

 想定外の事態はあったものの、船は予定通りイベルグの港を目指している。
 明日の昼頃には港に着くらしい。
 それでこの船とも、この国とも。お別れになる。
 そのはずだったのに――

『世界はこれで繋がった。きみは、選ぶだろう。きみの世界を』

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