永く青い季節 〜十年愛〜
私は、彼に頭を下げるとくるりと背を向け、車道の信号が赤になるのを見計らい、這いつくばるようにしてガードレールの下から手を伸ばすと、無残な姿になった傘を拾い上げた。
そして、立ち上がって体の向きを変えると目の前に彼がいたので、驚いて声を飲み込んだ。
私が折れた傘を拾っている間、彼は自分の傘を差し掛けてくれていたのだ。
「さ、行くよ。一応、俺が傘差すから、ついて来てくれたら、少しは俺が雨よけになるかも」
彼がニッと笑い、走り出す。
「あの…ありがとうございます」
私の斜め前を走る背の高い彼の背中にお礼を言って、必死について走る。
時々、振り返って、私の様子を確認してくれる彼の仕草が、たまらなく嬉しかった。