God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
最後の切り札
その日の放課後。
生徒会室では、「予算内でどうにか決着」と、阿木が一息ついていた。
そこに部活を終えたノリがやってきて、「先輩が」と言葉に詰まりながら訴えてくるので、どんなエゲつない演目を言われたのかと問い詰めると、「それがさ」と言いにくそうに、
〝おまえらはただ、雁首揃えてステージに上がるだけでいい。うひひ〟
絶句。武闘派は、一体どんな爆弾を用意して待っているのか。
それはひとまず置いて。
今日は右川の立候補について、阿木とこれからの作戦を真面目に検討すると言う事で、集まった訳で。そして、そこにノリも飛び入りで加わった訳で。
「せっかく好い雰囲気だったのに」
開口一番、ノリから不誠実な彼氏だと責められた。
「彼氏の真心が感じられなくて、破局。まぁそれも仕方ないわよね」
阿木の目は、笑っている。
「俺、真面目に話そうって言ったよな」
あの日の5時間目。
あれだけの恥ずい思い。一瞬で、俺史上トップに躍り出た。
〝沢村くんに、フラれました〟
周囲を絶句させて後、右川は机に突っ伏して泣き始めて……てゆうか、嘘泣きだろ。そんな分かり切った事なのに、何故か吉森先生も周りも、どうにかしなさいという目で俺を見る。こういう時、思うのだ。いつかグレてやるぞ。
「チビに好いように転がされて、ヘラヘラすんな」
重森からは、そんな捨て台詞でダメ出しを喰らった。俺はヘラヘラなんか1度もしていないし、転がされたのは俺じゃない、いつかの君だ!
「で、立候補はどうするの?どう進めるつもりなの?」
阿木はスマホをチェックする傍ら、書類を片手でまとめる。
「その事なんだけど、実は……どうしようかと迷って」
「つまり、右川さんの作戦成功か」
「え?」
阿木は、揃えた書類をファイルに仕舞って、「ほら、あの修学旅行の夜」
〝もーやめた!おまえの補佐、疲れる。俺には無理!〟
「それをまた言わせようという魂胆だと思わない?つまり、沢村くんが自分から投げ出すのを待ってる」
思わず息を呑んだ。実際、今まさに投げ出そうとした……。
「おまえ鋭いな」
今の今まで、気が付かなかった。どうしちゃったのか、俺とした事が。
「立候補を諦めるとかって、もう本人に言っちゃったの?」
「まだ言ってない」
それを言うべきかどうかを、ここで相談したかった訳で。阿木の話を聞いているうちに、忘れかけていた意地が甦る。右川の都合良く、流されてたまるか。
思い返せば、右川が馴れ馴れしい態度を取るのは、いつも誰かの居る前に限られていた。人目を気にせず、押し付けがましい、あの態度。正直、俺は1番、苦手である。そして2人きりになった途端に素っ気ない。というか、いつも通りの敵意丸出し。相変わらず〝じゃ、帰るね♪〟とくる。
そうか。謎は解けた。そうと分かれば。
フッ。
ノリは、「わ、怖ぁい♪」と、右川の声色を真似た。
それに軽くジャブをかまして、
「どうにでもしろ、だ。取り憑くなりブン殴るなり。どうあっても、右川は逃げられない。最後の切り札は、こっちにあるんだからな」
今回こそは、俺が頂く。
「「その最後の切り札って、何?」」
2人が息の合ったハーモニーを聞かせた。
最終的には山下さんに頼んで、右川を説得してもらう事。
ここで2人にそれを明かした。それが1番効果がある。そして、それを恐らく右川自身が1番、恐れているという事も。
「なるほどね。やらないと言い張ってその結果、大好きなお兄さんに訴えられたら困る。だから沢村くんを困らせて、自分から辞退させよう……だわね」
阿木が、俺に同意を求める如く、ちらり。
俺は頷く。
だから、山下さんにチクると言った途端に、フラれちゃったとカマして幕引きを図ったのだ。明日からは、また別の迷惑作戦に及んでくる可能性がある。
だが、これからあいつがどんな作戦で攻めてこようとも、この切り札は最強だ。勝てる物など無い。
「聞いてると、どっかの、ならずもの国家みたい。結局はアメリカ頼み、中国頼みで屈服させるって事よね」
微妙に、阿木からディスられた。俺という〝日本〟は自力で〝ならずもの〟の右川を説得できない。そう言いたいのか。
「生徒会とか選挙とか、そんなのどうでもいいじゃん。って言ったら2人に怒られるかなぁ」と、ノリは呑気に笑う。
「洋士と右川さんが、前みたいに仲良くしてくれたら。それだけで良いよ」
あ?
仲良く?
前みたいに?
何言い出すんだと、正直呆れた。
あの、あからさまな馴れ馴れしい態度。目的のためには手段を選ばない。課題も何も、どんなに助けてやっても、俺はゴミ。石よりは手応えがあってマシだとばかりに、恋バナの聞き役に宛がわれ、妄想シミュレーションにまで利用されている。〝都合の良い男子〟だ。
この状態の、一体どこを切り取って仲良しと言うのか。
次々と攻撃されて、ルールを無視されて、それでも日本はあの国と仲良しって言えるのか。それを言うと、何をツボったのか阿木は大笑いで、
「もし日本がその国と蜜月ってぐらいに仲良くなれたら……そんな可愛い存在のためならって、あっちも自分からノリノリで頑張ってくれるかもね」
だから右川と仲良くなって〝可愛い存在〟として俺を認めさせ、可愛がってもらえと?君と永田会長じゃあるまいし。
俺と右川の蜜月とは、もはや途方もなく〝高望み〟となりにけり。
……くそチビ。
いいだろう。今は笑いたいだけ笑い、利用するだけ利用すればいい。文化祭の忙しさをこれ幸い、束の間、おまえは面倒なイザコザから逃れていられる。
文化祭が終わり、3年も引退の色が濃くなってきたその頃、俺はミッションを遂行。プログラムが発動だ。……山下さん、その頃、参ります……。
俺の覚悟は決まった。
だが、
「結局の所、もう右川さんじゃなくても、いいんじゃない?」
阿木は、俺の覚悟に水を差すような事を云ってくる。
「公認候補は、沢村くんでいいと思うけど」
今は頷けない。そんな俺を見て、阿木はクッと笑うと、
「どうしても右川さんじゃなきゃって、そんな決まりはないんだし♪」
だっけ?と、阿木はイタズラっぽく笑った。
「だけど、永田さんの前で宣言しちゃったから。今更撤回、後戻りなんて」
「平気じゃない?永田くんも松下さんも、もとは沢村くんに会長やってもらいたかったみたいだし」
それに気を良くしている場合じゃなかった。
「それとも、どうしても右川さんにやらせたい理由があるの?」
「やらせたいっていうよりかは……」
俺は、阿木の様子を窺いながら、言葉を選びつつ、
「正直、ここまで突っ込んだ意地もあるし、みすみす右川の思惑に乗って、引っ込めるっていうのも、どうなのかって」
〝2強以外の一般生徒に、学校政治への参加を促す〟
〝学校行事、運営の何たるかを考える良いきっかけ〟
俺はどこかで聞いたような一連の綺麗事をズラズラと並べた。
胡散臭そうに耳を傾けている阿木が、何だかやけに面倒くさいわね……と、引き下がってくれないかと願いながら。
が、
「私は別にどうでも」
それが何なの?
誰がそれを望んでるの?
それに何の意味があるの?
阿木は、次々と畳み掛けた。あらぬ方向に結論をこじつけられて、このまま逃げ道まで塞がれてしまいそう。女子に特有の事かもしれないけど、ちょっと、しつこい気もする。(永田さんも大変だな。)
「ま、私としては、沢村くんに言われた通り、彼女を引き留めておくけど」
阿木は、俺の反応を待たなかった。
「だけどこれって、誰のための引き止め作戦なのかしらね」
じゃ、また何かあったら言って……。

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