God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
〝フラれたと言い続けて困らせる作戦〟
〝モルダウ〟
〝旅立ちの日に〟
〝栄光の架橋〟
ジャンルも何もバラバラの選曲が、3組の混乱ぶりと、チームワークの悪さを露呈している。
明日からの文化祭本番を前に、その準備に丸1日充てられてる本日、我が3組は音楽室を30分貸し切って、最後の歌の練習に励んでいた。
HRや学活の時間を充てて練習に勤しんだ結果、何とか曲の流れには乗れるものの、〝モルダウ〟の、やたら硬い言葉の羅列には泣かされるし、〝旅立ちの日に〟選曲には、「何故ここで卒業ソング。そんなにオレらを追い出したいか?」と3年音響係に咎められるしで、結果〝栄光の架橋〟だけが自信満々、高らかに響く。
練習は、まーまー順調に進み、「どうにか形になったか」と、先生だけが悦に入っているが、形になっているのはピアノ演奏だけ。クラスのムードは、「5位以内には食い込みたい!」と野心を見せる者と、「とにかく終わってくれれば、それでいい」という、消極的な者とにパツンと別れた。
こういう場合、何となく小っ恥ずかしいとか照れ臭いとかで声が出せない輩は、もう歌をそっちのけで雑談に興じている。
俺はと言えば、隣合った鈴原と一緒になって、進藤をイジっていた。
〝明日、彼氏が遊びに来る〟
進藤は恥ずかしそうに顔を赤らめて、「もお、ちゃんと歌いなよ」
ジーッと覗き込んでやると、すぐに楽譜で顔を隠した。そういう素直な反応が、何だか新鮮に映る。なかなか進藤は可愛気のある女子だと言えた。
誰かとは大違いだな。
「写真無いの?見せてよ」と、鈴原が突くと、「無いよっ」とか言いながらも嬉しそうな様子から察するに、がんがん写してると見た。
「そうだよ。俺にも見せてくれよ」と熱烈、こっちも便乗する。
「沢村くんは知ってるでしょ。塾で一緒だもん」
「え?」
進藤が照れながら寄越した画像を見ると、見慣れた机に挟まれて、男子が1人写っていた。俺の斜め前でやたら辞書がブ厚いヤツ!てゆうか、進藤が同じ塾だとは知らなかったので、そっちに驚く。
「あたし2学期から行き始めたから。私立文系コースの方」
聞けば、違う教室だった。
とは言え、これで眠気覚ましに進藤の彼氏を眺める楽しみが出来たな。
「カズミちゃんも塾に来ればいいのに。彼氏からも言ってよ」
「だーかーらー……」
あいつはフラれたんだから。
と、うっかり言い掛けて止めた。自分から認めて回るほど屈辱な事は無い。
右川は、あれ以降、フラれた♪フラれた♪と周囲に言いふらしていた。
「あれ?右川が、フラれたんだろ?」
「確か、右川が、フラれたんだよな?」
どこでも俺はイジられてハチの巣になる。
〝フラれたと言い続けて困らせる作戦〟熱烈・進行中だった。
それを耳にした周囲の反応は様々で、その多くは相変わらずの冷やかし。
だが、
「ああいう女子って生理的に嫌だ。だから沢村が断るのは当然だよ」
そう言って同情してくれた輩の多くは、割りと真面目で信頼のおける面々であり、神は人類を見捨てないとホッとしたのも束の間、「でもさ。顔が気に入らないから断るなんて、コビトさんが可哀想じゃね?」と聞こえてくると、それは悪魔の囁きにも似て、骨からゾッとした。
右川は、自分に都合の良いように話をでっち上げている。
俺は、顔が理由で女子の誘いを断った事なんか1度も無い。
困った事に、周囲の認識では、どっちに転んでも俺が右川を振った事には一応なっていて、それが頂けなかった。
恋バナ配信は当然というか、あれからパッタリ来なくなる。
そうなってくると何だか寂しい気もしてきて……そんな自分が心底、哀しい。
くすん♪
え~ん♪
メソメソ♪
わざとらしい泣き真似。右川は、もうそこら中でやっているらしいのだが、俺はまだ1度も見掛けていなかった。てゆうか、わざと俺に見られない所でやっているとしか思えない。痺れを切らした俺が、いい加減にしろ!と反撃してくるのを待ち受けているのか。
〝もうおまえなんかと関わりたくない!もう絶交!立候補は取り消し〟
〝俺が悪かった。お詫びと言ってはなんだけど、立候補は取り下げる〟
たとえどっちに転んだとしても、そうは行くか。
ピアノ演奏の女子に話し掛けている進藤に近付いて、丸めた楽譜で頭をポン!と叩いた。
「彼氏が見に来るんだから、本番ちゃんと歌えよ」
自分を棚に上げて説教、という愚行に及んで、俺は音楽室を後にする。
クラス発表が一段落すると、すぐに頭の中はバレー部の発表で占められた。
武闘派がどんな準備をしているのか。何か作っているのか。全貌が、未だ伝わってこない。後で黒川に訊いてみよう。4人の中で1番、情報が早い気がする。(そして工藤よりは確実。)
1度、生徒会室に戻って赤いジャージに着替えた。
今日はこれから〝設営の鬼〟になる。
校庭に出ると、あちこちで大道具を運んでいるのは、やっぱり〝赤〟ですな。
事前に、男子を5人連れて来いと頼まれていたので、俺は行く先々で声を掛け(ノリは当然)、寄せ集めた精鋭(?)と共にゲートの骨組みをバラバラに抱えてやってきた所、開口一番、
「去年って、どうやったっけ?」
何故か老獪な先生に尋ねられた。曖昧な記憶を辿っていた所に3年男子が遅れてやってきて、「去年、スマホで動画を撮ってた先生いましたよね」
だがその先生は、「異動しちゃったからなぁ」らしい。
こうなったら仕方無いと、見よう見まね、たまたま通りがかる3年生を次から次へと捕まえて、その記憶を100パーセント当てにして、何とか土台だけはこしらえた。
今年のテーマは〝all as ONE〟。
それをデザインして掲げるのは、後に残されたゲート担当者に任される。
そこからノリと2人、バレー部の模擬店の設営に急いだ。
バレー部を始めとする運動系部活が模擬店を展開する、ずばり〝双浜高校文化祭名物、中庭グルメ・ストリート〟である。
そこへ出向いた途端に、「遅ぉい!」と女子の大合唱を浴びた。
同じように模擬店の準備をしていた陸上部、サッカー部、水泳部がこぞって、「遅ぉ~い」と、女子の声を真似ての大合唱が、ひと回り大きく響く。
俺的に言わせてもらうと、ここに直接のんびりやってきた黒川と同じ扱いにされた事に、納得がいかないんですが。
「結局。うちって、何食わすの?」
黒川が面倒くさそうに、女子に問えば、
「おでんと、クラム・チャウダー」
まるで統一感が無いけれど、どっちも売ると言うなら、どっちも食べたい。
女子3年が、「もう下ごしらえは終わってるよ。冷凍中で~す」というので、そういう事なら準備は早く済みそうだ。その先輩女子に呼び出されて、のんびり集まってきた3年部員と共に、イス、机、テントを整えた。
その間、当然というか、情報収集は怠らない。
「ステージの事。何か聞いてませんか?」
そこら中の先輩に聞いて回る。
武闘派は2人共、手伝いに姿を現さなかった。「オレらはステージ担当だから」と、いう事らしい。何も知らない。聞いていない。3年部員に、あちこちから言われた後で、
「今年は、どこまで温度下げるのかなぁ」
……急に、景色が曇ってきた……。
バレー部が終わって生徒会室に戻り掛けた所で、「ホースの長いのが足りねーんだけど」と、先輩陸上部員に訴えられた。「心当たりがあります」と向かおうとすると、「おまえジュース、飲む?」と、そこに割り込んできた先輩サッカー部員に漠然と訊かれて、貰えるというなら……やぶさかではない。
「じゃ、買って来いよ」
何だそれは。
「ホース取りに行くだろ。ついでに自販機で3本、おまえの分でプラス1」
当然、お金はもらえない。
えぇ~!
とりあえず大袈裟に声を張り上げて周りに注意を促しておくか。
コイツらには近づくな。目が合ったら最後。またいつ俺のように誰かが犠牲にならないとも限らない。
武闘派は、どこの部にも大抵3人は居る。入学した頃から、この図体のデカさだけで目を付けられてきたので馴れっこと言えば馴れっこだが、今でも厄介と言えば厄介だな。
ホースを調達して生徒会室に立ち寄り、専用倉庫から余り物のジュース3本を取り出した。(プラス1?要らねーワ)
途中でサッカー部員の桐生を捕まえて、渡してくれと頼んだ。
「おまえんとこの先輩なんだから。どうにかしろよ」
剣持と違って親に力を持たず、何と言っても女子にモテモテの桐生は、俺以上に厄介な先輩に馴れている……と言えた。本気出したら泣けるな。
ついでのように何かを頼まれそうな予感がして、慌てて忙しいフリをすると、
「あのさ。後でちょっと、沢村に相談したい事があるんだけど」
ほら来た。
「こっちが何か頼んだ後で言うなよ」
という訳で、これは断れない。曖昧に返事をした途端、「ライン、沢村に教えたっけ?」と来て、もう誤魔化せないと交換に応じる。
桐生は1組。重森と同じクラスだ。クラスの事情なら、あそこは頼りになる男子が2人居る。そいつらに投げればいい。サッカー部の事情を言われたら、それが問題で。
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