God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭

神曲、からの……地獄のルーレット

球技の部活がボールを使うゲームを展開するのは、これまたどこでも見かける、お家芸だ。矢印に導かれてテニスコートに出向くと、「らっしゃ~」と、同輩女子に曖昧に歓迎されたと思ったら、
「ちょっとさ、景品が足りなくなっちゃって。当たってもごめんね」
「って、いきなりマイナスから」
「大丈夫。参加賞のおみやげはあるから」
寺島さん……に300円を払って、俺はテニスラケットを受け取った。
ボールを打ち込んで的に当てるゲーム。3球のチャンス。
その的はと言えば……もうボロボロ。
来客に、ずいぶん大当たりを叩かれて、それで景品も足りなくなったという事か。読めてしまう。見ると、俺の隣のブースに誰だか先人が居て……やっぱりというか、黒川だった。
「黒ちゃん、しつこいんだよ。昨日も今日も3回目なんだから」
そこまで通い詰めるとは。(とうとう吉森は本気で卒業なのか。)
黒川は俺を見て、「何だよぉー」と、いきなりケンカ腰。そこから、こっそり近寄って来たかと思うと、「オレの寺島さん、だからな」と来る。
「狙ってねーよ」
桂木といい寺島さんといい、どうして俺が狙っていると、どこでも決めつけられるのか。まさかと思うが、俺って〝彼女欲しいオーラ〟をそこら中に撒き散らしてる?そんな事を考えながらボンヤリしていると、「ちょっと貸せ」と黒川は、自分が持っていたラケットを強引に取り替えた。
まさかと思うが、そのラケット、寺島さんの?分かり過ぎて寒い。
黒川の3球目が見事に1番の的に大当たりした。さっそく寺島さんから拍手を貰って、黒川は大喜びである。「レギュラーじゃなくても、これぐらい当然だし」と得意になっていた。
そう来られると、何だか遠回しに挑戦状を叩きつけられたように感じて、現在(恐らく)準レギュラーの俺としては黙っていられない。
「じゃ、俺は7番で」
俺の渾身のコントロールで、1球目、7番を見事にブチ抜いた。
そして見事に……壊れた。
寺島さんから拍手を貰う所か、同輩女子から、「何で壊すの!」と責められ、「直してくんなきゃ生徒会を訴えてやる!」と脅される。
「ごめん!悪かった。謝るから」
通じない。結果、余計な仕事を増やしてしまった。仕方ないとばかりに、時間を気にしながら折れた枠をグイとこじ開け、どうにか形を整える。
「私、手伝います」
名乗りを挙げてくれた寺島さんから模造紙を渡されて、それで穴を塞いで。
「やっぱ、お姉さんに似てるね」と話し掛けると、「あー、どこでも言われます」
恥ずかしそうに、ハサミを整えながら、
「沢村先輩の事、お姉ちゃんからよく聞いてましたよ」
「え?何を?」
キレイな先輩だった。だから、そう言われると、ちょっと気になる。
「すごく真面目なコだって……あ、コとか言ってすみません」
爆発的に照れ臭い。てゆうか、誰でもいから俺を抱きしめてくれ。
「あ、先輩、ありがとうございました。ヌイグルミ」
「ヌイグルミ?」
まさか、「カミナリの?」
ユニフォームの片腕に名前の刺繍がある。
見ると〝Yako Terasima〟 つまり、〝やっちゃん〟。
「あー……」
死んで見る?のオカルト集団と友達なのか。どえらい目に合ったと〝やっちゃん〟に暴露した。
「いちいち詳しくて面白いんですけど、ちょーっとマニアックですから」
「その〝ちょーっと〟っていう言い方、お姉さんも使ってたな」
「うわ、また言われちゃったし」
思いがけず盛り上がった。それを黒川が黙って聞いている訳もなく、当然しゃしゃり出てきて、「後はオレが、やっといてやるよ」と即座に(勝手に)交代を申し出た。最後は手柄を横取りか。
「てゆうか、もう終わってる。後は運ぶだけ」
寺島さんの前だからって、そうは行くか!という感じではあるが、そろそろバレー部の発表の時間だと、運ぶのは同輩女子に丁重にお願い(何故?)して、俺達は部室に向かった。
「ったく!おまえはいつもオレの邪魔ばっかり」
「してないって」
修理もヌイグルミも、単なる偶然。だが、恐らく寺島さんは……止めよう。
(憶測の域を出ない)
「あれ?そういや参加賞どうしたっけ」
「ゲ!オレもだ。てゆうか、昨日からずっと貰ってねーよ。3回分!」
そこは黒川と一緒になって、仲良くブーイングを発した。
「すっかり忘れてくれたな」
「それも含めて陰謀じゃね?あの的、いつ壊れてもおかしくなかったじゃん」
「かもな。景品にも困ってたし」
とっくに着替えたノリと工藤に、「遅っそ~い」と部室前で渋く迎えられた。
「先輩、とっくに体育館に居るってさ」と、不安のジャブを喰らって、颯爽と(?)ユニフォームに着替えて体育館に向かう。
この時間帯は、カス時間と言われている事もあって、松下さんのクラス発表たった一曲(!)、バレー部の出番、その後のバスケ部ヤサぐれ踊りなどなど、割りと短い単位の発表で繋がっている。
我がバレー部は30分という時間を貰ってはあるものの、その殆どは前の撤収と次の準備に充てられてしまうので、本編は実質10分程度。
つまり泣いても笑っても、10分の我慢だ。
舞台袖に入ると、ちょうど松下さんの3年6組がステージに出て行った所だった。見ると、制服あり、部活のユニフォームあり、コスプレありの大歌劇団。否が応にも期待が掛かる。
指揮者の女子(松下さんの彼女)が壇上に上がると、途端にパラパラと拍手が起きた。その音からして……カス時間にしては、かなり人が居る。
臨潮感のあるカラオケの音が流れだして、それに合わせて合唱が始まった。
〝Bird〟
まるでゴスペルのように、1人1人が順番に出て来て歌ったかと思うと、途中からは2~3人とか、女子VS男子とか、至る所で目まぐるしく歌い手が変わった。声の違いやコスプレで、見ていて飽きない。
途中のソロパートで松下さんが前に出た。バレー部のユニフォームがやたら格好良く見えるというだけでなく、あまりにも歌が上手くてド肝を抜かれる。
その後の1番の聴かせ所では、校内でもあまり目立たない先輩男子が前に出て……小太りで、どこか鈍くさい先輩だと思っていただけに、その羽根を背負ったエンジェル・スタイルにまず驚き、そして、これまたあまりの歌の上手さで、観客にも大きなうねりを呼び起こしていた。
〝空には道が無いだけ〟
〝自由という籠の中〟
〝この空に、もう翼は要らない〟
歌詞にも思いがけず、ジンときて……神曲。
驚く側の醍醐味が、ここにある。
「てゆうか、これの後にオレらって何やらされんの?」
黒川が呆然と呟いて、そこで現実に引き戻された。
あのユニフォームの価値を最大限に下げる……そんな桁違いに見苦しい事はしたくない。したくないのに、武闘派が満を辞してやってきた。
その手にはバレーボールを2つ抱えている。
ステージでパスの実演でもするのかと、ホッと一安心。だがそこに、テニス部にも負けない、ボロボロで手作り感満載のルーレット?が出てきた。
「当たったら従え。ネタは色々用意してあるからな。大ウケ確実だぞ」
と、去年スベり散らした先輩がのたまう。不安が3倍になった。
「1人1つとは限らない。全部1人でカブる事もありうる。うん」
そして、一人の悲劇をバレー部全体が背負う事にもなりうる。うん。
さぁ、生贄は誰だぁ~っ!
俺たち4人はお互い顔を見合わせて、息を呑んだ。
見ると、その的の領域は、俺達の名前で4分割されている。
地獄のロシアン・ルーレット……黒川の領域だけが、何故か狭い。
「あ、彼女の居るヤツは領域2倍だからな」
「俺も彼女居ません!」
思わず手を上げて、猛抗議した。
「沢村は居る!オレは見た!」
「そうだよ!右川さんが居るじゃないかぁ!」
「こいつはガチ二股してます!ゲスです!領域3倍で!」
一斉に、それぞれが自分可愛さゆえに仲間を売るという暴挙に出てくれた。
松下さんのクラスが厳かに舞台を後にしてすぐ、何だか脳天気な音楽が流れる。
武闘派に背中をド突かれて、意気消沈、4人でステージに飛び出した。
パラパラと、やっぱり拍手は起きるのだが。
歌なら、どんなに良かったか。どんなに自信は無くても、歌とかなら。
何の説明もなく、いきなり、
「ルーレットぉ~、スタートっ!」
マイクの音量がデカ過ぎる。
ハウリングに驚いて、俺達4人は耳を庇って肩をすくめた。
手作りのせいか、回転のおぼつかないルーレットは、すぐに止まる。
「黒川くんだぁ~ッ!」
「は!?オレ1番狭いのに早速当たるんすか?そんなの有りっすか!」
有無を言わさず黒川はモジャモジャの被り物をさせられ、その胸にはバレーボールを2つ嵌められ、眼元は真っ黒に塗りたくられ、その様を見ながら、本人以上に残された3人の顔色が曇る。
「おっぱい・ボール&ボンバヘ!」
少し間違えばパワハラ&セクハラ。その真っ赤な口紅が眩しい。
……似合う。
笑ってる場合じゃない。
「このカノジョとぉ~、熱烈ちゅ~ッ!できるラッキーな男子はぁ?」
急激に、嫌な予感が満ちてくる。
俺は半分ステージから背を向けた。つい祈りの手を組んで……。
「沢村くんだぁ~ッ!」
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無!
ノリが相手なら、まだ何とか……っていう問題じゃない。 
「これってみんな引きますって!ほら!誰も欲しがってないですよ!」
必死で抵抗していると、「おまえらも手伝え!」と武闘派の号令に沿って、ノリと工藤が襲い掛かってきた。
強引にステージ・センターに押し出され、強制的に黒川に吸い付かれ、合成的な髪のモジャモジャ感を味わい、ボール胸に顔を押し付けられた時は……顔というより、男子のプライドが潰れた。
曲がった爆発カツラ&メイク失敗の顔のまま、黒川の目は据わっている。
記念だと、ツーショットで撮られた。
「お次はぁ~!」とばかりに、次に当たったが工藤がパンツ1枚になる。
キャーッ!という女子の悲鳴をどう勘違いしたのか、「まさかオレ今最高に輝いてる?」と、自分からノリノリで自撮り。工藤の鈍感が都合良く働いた所で……そこで時間が来た。結果、ノリだけが無傷に終わる。
部員は、店を放ったらかしで(!)殆どが見に来ていた。
見ると、1番前の席に仲良く並んで、石原と浅枝が大笑いで見物している。ヤバいよヤバいよ~とか言ってやがる。
「来年、覚えてろよ」
思わず、口から洩れた。
「来年、女の前で粉々にしてやるからなぁ!」と、黒川も便乗。
伝統は、こうやって受け継がれていくんだと、身を持って、知る……。

< 25 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop