God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
文化祭 最終日の2日目

「うわ。巨乳でよかった」

文化祭 最終日の2日目。
秋晴れの良い天気。文化祭日和(で、いいのか?)
バレー部の演目は、未だ知らされていない。
結局、新しい情報は何ももたらされないまま、昨日は単なる愚痴の言い合いと、黒川の下手クソな歌と、工藤の勘違いギリギリのノロケと、ノリのしっとり年季の入ったノロケを交互に聞かされて終わった。その後、ノリだけが俺の家に泊まりにきて、ここだけの話……桐生と桂木の一件で、大いに湧く。
「そう言えば、やたら5組に来てた。女子が浮かれて浮かれて」
その桐生が右川の策にハマってケツドリルとデートする。そこから気がつくと5時間、盛り上がり過ぎて、ノリと共に眠れなくなった。結果ほとんど徹夜状態で登校する羽目になる。
2人共、大欠伸でマッタリ登校していると、
「今日はノリきち、か」
残念そうに呟いて、永田の自転車が遠ざかった。後ろに、彼女の姿は無い。
「たまたま?」
「じゃない?」
とうとうXデーが来たか。……この時の俺達には知る由も無かった、とか言ってみたい!
バレー部の部室に荷物を置いて、時間まで中庭で空を眺めながら、
「永田の持ち込みがウザくてさ」
差しいれDVDの事を言うと、
「僕も渡されたよ。〝熟女でポン!〟とかいうの」
「うわ。巨乳でよかった」
「僕の〝熟女〟と交換してよ」
「おう。おまえの彼女に渡しとくか」
「最近、何かと洋士は僕を追い詰めるよな。怖いって、もう」
ごめんごめん、と一応謝る。ちょっと効き過ぎた。
「あのDVD、どっかで換金できないかな」
一瞬、名案だと思った。
「どこで換金すんの?僕らって、持ってるだけで捕まるんじゃない?」
「そこまでは無いと思うけど……出所は追及されるかも」
「ていうか、普通に怒られるよ」
「永田のせいで、俺らが」
「そう。永田のせいで僕達が」
換金はリスクが大きい上に、色々と面倒くさいという結論に至った。
ややあって、「そうだ!5組のバザーに出すっていうのは?」と、ノリが閃く。
桐生のサイン付きで。デート権を付けて。
そういう場合、これを欲しがるのは男子なのか。女子なのか。
そんな、しょーもない雑談に耽っていると、男子が1人、慌ててその先の部屋に駆け込むのが見えた。すぐに出てきて、〝お化け屋敷 準備中〟という看板を、その部屋の前に掲げる。
レスリング部とラグビー部が合同でやっているという模擬店。
それは〝お化け屋敷〟という名の単に暗いだけの部屋……と聞いている。
ノリと2人、準備中という看板を無視して、冷やかし半分で中を覗いていると、俺らと同じくらい顔色の悪い同輩が出てきて、
「おまえら単品で来んじゃねーよ!女子同伴で来いやぁ!」
2~3人掛かりで追い出されてしまった。……何やら、怪しい気配。
「あそこに入ったら彼女が狙われそうだよ」
ノリの、それに大いに頷く。(彼女、居ないけど。)
「洋士は、桂木さんと一緒に行けば?」
こう言う時、思うのだ。
〝ここだけの話〟それを誰かに言ったら最後。それは勝手に踊り出す。
「それとも、洋士が女装してから、また来ようか」
「それ、どっちかっつーと、おまえ側の役割だろ」
俺の〝女房役〟と言う立場において。てゆうか、桂木と言うより、右川はどうした?こう言う時、思うのだ。
誰かに言ったら最後。最新トピック以前、過去の履歴は消去される。(マジで?)
そこでチャイムが鳴った。
9時10分前を知らせる実行委員会の放送が聞こえる。
「桂木さんの声だ」
「もう忘れようゼ。今日はそれどころじゃないだろ」
「うん。今日は色々あって気が抜けないなぁ」
ノリと集合時間を確認して、俺は生徒会室に向かった。9時ギリギリで眠そうに目をこすりながら生徒会室に入ると、そこは永田さんも松下さんも勢ぞろい。
朝からペコペコする羽目になる。浅枝は、昨日預かったという収支に見入っていた。その横では、「今いいですか?」と次から次へとやってくる実行委員の対応に、松下さんが追われている。
「ゲリラ・ライブって、今日もゆる~く警戒ですか?」
「女子がヤンキーに絡んで大変だった。あの子、どうにかして」
「化学部が、やけにファイアーなんだけど。危なくない?」
すぐそこに居る永田会長を気にも留めず、みんながみんな、松下さんに集中。
当の永田会長と言えば、窓際の椅子にちょこんと腰かけて、彼女と雑談。
「今日のヴァイオリンって、3組の後藤んちの弟なんだよ」
「後藤先輩も、何か楽器やってるんだっけ?」
「楽器じゃないけど、hiphopやってるとか」
「あー、何かそんな感じ。似合ってるかも」
「見た目はタカラヅカだけどな」
そこで2人は笑っ…………聞いてるだけで眠くなる。
会長って、こんな感じでいいのかな。隣では浅枝が、寄り添う2人に自分と石原を投影しているのか、うっとり眺めている。
「沢村、ちょっと」
ただならぬ様子で、松下さんが手招き。俺は部屋の外まで連れ出された。
「サクッと直しといた。それで行けると思うけど、いいかな?」
1組の後始末の件。
「はい。ありがとうございます」
正直ホッと胸を撫で下ろした。
「あいつには言ってない。だから、ここだけの話って事で」
永田会長の様子を窺いつつ、それに頷いた。阿木と機嫌好く話している所にわざわざ解決済みの案件を晒して、寝た子を起こすような事もしたくない。
そこに委員が2人来て、松下さんを呼び止めた。永田会長に呼び戻されて、俺だけが顔を覗かせて返事をすると、「今日来るんだろ?」と漠然と訊かれた。
「誰ですか?」
「松下の……あれ」
聞けば、今日あの、松下さんの彼女がステージを見に来るらしい。松下さんは、今それどころじゃないと顔をしかめながら、
「呼ばない訳にいかないんだよ。僕らの選曲ってあいつ絡みだから」
片腕に実行委員が持ち込んできた大量のプラカードを抱えて、松下さんは嬉しそうに困って(?)見せる。永田会長によれば、松下さんの彼女は別校でありながら、松下さんのクラスの演目に意欲満々で、その楽曲はもちろん、昨日の練習にも顔を出してクラス全員に熱血指導……あの彼女さんから想像が付かないけど。それは、呼ばなくても来ますよ。
「もう隠している訳にいかなくなった」
ですね。
またそこへ、実行委員が3人、束になってやってくる。「埒が空かないから、委員会に行ってくる」という松下さんに引っ張られて、永田会長も共に出て行った。「じゃ、後で」と、阿木に意味ありげな目配せを残して。
みんな、今日も充実してんな。
ふと気付けば……生徒会においても、そういう相手が居ないのって、俺だけ。
「あー……」
情けない声をあげてしまった。
阿木がすかさず、「まさか、お金が合わないの?」
松下さんとコッソリやってのけたと言っても、阿木の事だ。感づいているかもしれない。「……いや、2年はなんとか」と誤魔化す。
「そっち、どう?」
「野球部が、お釣りが消えたって大騒ぎしたみたいだけど、後で聞いたら、誰かが一旦家に持って帰ったとか。3年はいいとして、1年生。1組と5組は悲惨だったわね」
1年は格好の生け贄だ。在校生を筆頭に、ヤンキーOBからもタカられるというのは、よく聞く話。だが同じ学年同じクラスで仲間同士が奪い合うというのは稀である。それだけに、重森の件は見逃せない。……重森なら、だけど。
未解決のグレー・ゾーン。
「そういう場合、金額が合わない時はどうするんですか?」
「そうね、金額にもよるけど。先生には、1年生だからまだ慣れてないとか。お釣りを間違えちゃったとか」
「そんな……みんな、ちゃんとやってるのに」
浅枝の戸惑いもわかる。誰も納得していない。
「浅枝さん、お昼まで自由でいいわよ」
阿木が交代はいらないと告げて、浅枝を送り出した。何故?それを問いただすよりも、部屋を出る際、「来年も、そうやるんですね」と浅枝の小さな一言が、痛烈に刺さる。
阿木と2人きりになった途端、「あれは、痛いな」思わず呟いた。
阿木も察していた。「そうね」と静かに頷いて、「どうにかなる金額だから誤魔化せるけど。それが積もりに積もったら……考えるだけでも怖いわね」
「出来たら、先生とかにも言いたくないよな」
「警察沙汰とか、止めて欲しいわよね。面倒くさい」
お互い通じ合い、頷き合った。
「あ、右川さんなら、お客を〝引き止めて〟もらってるから」
こっちが何を聞いてもいないうちから、知らされる。
それならとばかりに聞き出した所、昨日の件が功を奏してか、右川はさっそく朝1番乗りで来ていたらしい。
「おうちまで説得に行ったんだって?」
「ちょっと別件もあって……」
「立候補の?」
「それとはまた別の」と濁した。単に説明が面倒くさい。ここは逃がしてもらいたい所だ。
「右川さん、かなり怒ってたわよ」
何でだ?
山下さんを呼んでやったのは俺だろ。感謝されても罰は当たらない筈だ。
「1日目の文化祭をサボった事がお兄さんにバレたって。沢村くんのせいで」
そこか。
「いい気味。あいつは山下さんに、一回ガツンとヤラれた方がいいんだよ」
そんな不正事実は、右川のためにもバレた方がいいに決まってる。
「山下さん、何時に来るって言ってた?」
「そこまでは」
右川が案内するのは茶道部だけではない。早い者勝ちの限定物、午前中からやっている映研、売り切れ必至の数々。俺は……今日はそれどころじゃないから。
「もうちょっとしたら、俺も出ちゃうけど。いいの?」
阿木は頷いて、「すぐ永田くんが来てくれるから、お昼までいいわよ」
なるほど。それで早々に浅枝を追い出したか。
そこで阿木は、「あ、バレー部は、お昼からステージか」と気が付いて、
「だったら、夕方までいいわよ」
つまり、その後の後夜祭の間はよろしくね、と?
それならとばかりに遠慮なく、「じゃ」と、俺はさっそく立ちあがった。
バレー部の部室に向かおうとしたが、まだ集合まで時間がある。
茶道部に立ち寄ろうかとも思ったけれど、昨日に続いて今日も邪魔に来たと騒がれるのも癪だし、右川が怒ってるというからには、そこでハマってケンカになるのも避けたい。
そんな言い訳を頭の中で反芻しながら、パンフレットで目についたテニス部の〝テニスボールで景品ゲット!おみやげ全員にあります♪〟を目指す。
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