God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭

ガツガツして

2時を過ぎて生徒会室に戻ってきた。
そこでは、浅枝と……何故か桂木も居て、仲良くジャージ姿でたこ焼きをツマんでいる。ソースの匂いが、もうそこら中に充満していた。
てゆうか、「阿木は?」
聞けば、永田会長、阿木、松下さん、この3人で松下さんの彼女に文化祭を案内しながら……つまり、遊びに行ってしまったらしい。
後夜祭を待てないという事だろう。ほんっと、充実してる!
「だーかーらー、桂木さんにお願いして、一緒に居てもらいましたぁ~」
桂木は浅枝に便乗して、「はーい、喜んでー」と来る。
「実行委員なんだから、そんなの当然だろ」
桐生の事が頭にあるせいか、桂木に対して、つい尖ってしまった。
「うっわ。生徒会の上から目線、来たー」と、桂木は肩までの髪の毛を後ろに送りながら、そんな冷遇はまるで何ともないという態度で、また1つ、たこ焼きをツマむ。「うん。美味しいね」
「ね、黒川とあれ、マジでやっちゃったの?」と、さっそく来たか。
「よく出来ますよね。あんな人前で。先輩、凄ぉい」
一切、俺は何も認めていない。「あれは、ちょっと口元をかすっただけ」
桂木がすかさず、「なーんだ。そうなの?ツマんない感じ」
また、それを言われたか。「いや、バスケ部よりマシだろ」と、桂木のたこ焼きを1粒奪った。俺に出来る腹いせなんて、こんなもん。
「沢村ってさ、右川以外で付き合ってる子とか居ないの?」
「居ない。つーかチビとは元から付き合ってねーワ。今後一切並べるな」
「わ、怖ぁ~い」と、浅枝が、わざとらしく縮む。
「キミ、終わってるよ。彼女が居ないからってイライラしちゃったら、ますます彼女出来ないと思うんだけど」
ますます居たたまれなくなったそこに、実行委員でも何でもない同輩男子がやってきた。
「あのさ、後夜祭って、5時からでいいんだっけ?」
うんと返事をして、「クラスの片付け、ちゃんとやってから出て来いよ」
まーた沢村が硬い事言って盛り上がりに水を差す……男子は、「へいへい」と項垂れて見せると、「うい」と、桂木にだけ愛想を振りまいて出て行った。
「バスケの毛木くん。彼女出来たばかりだから、許してあげて」
それだと、まるで彼女居ないイライラを俺が毛木くんにまで八当たりしたと聞こえるのは、気のせいか。たこ焼き1個では足りない気がしてくる。
「5時かぁ~、先輩、あと3時間もありますよ」
そこで、桂木と目が合った。恐らく〝ツッコんであげなよ〟
「あ、あーあー……浅枝って、後夜祭どうすんだっけ」
知っていながら尋ねる。不自然、極まりない。
だが待ってましたとばかりに、浅枝は頬を弾ませて、
「石原くんが、さっき焼きそば食べたから、夜はクレープ買っとくって」
「「へぇー」」と、桂木と2人で同時に唱えた。
「「仲良いなー」」って、これも一緒に。ていうか、食い過ぎだろ。
「桂木さんって、彼氏とか居るんですか?」
「そんなのいないよ。こういう時、居たらいいけどね」
コクってくれる男子。そんなの、が居るだろ。「誰でも見つけりゃいいじゃん。バスケでもサッカーでも声掛けて」と、俺は微妙に桐生を仄めかした。
「やだ、そんなの。ガツガツしてるみたい」
桂木も負けじと応酬。そこで、ふと思いついて、「あのさ、ちょっと聞いてい?」
2人の様子を窺いながら、改まってみた。
「俺とかって、女子にガツガツして見える?」
黒川を筆頭に、女子を狙っていると思われがちだ。そんな話をしてみると、
「永田と比べたら、そうでもないと思うけど」 
「右川先輩にはガツガツしてますよ」
「それ意味が違うだろ」 
聞かなきゃよかった。
「あたしも、ちょっとい?」と、そこで桂木も急に改まった。
「沢村って、会長に立候補しないの?」
こんな雑談の最中に、その話をブッ込むか。まさにバスケ部。
浅枝は、戸惑いをはっきり顔に出して俯いた。
「その可能性も、あるというか無いというか」と、ここはボカしておく。
「右川は?あのコって本当に出る気なの?」
それも、今はまだ手の内を見せてはいけない。
「本人が嫌がってるから、それもどうなるかな。永田さんはそのつもりみたいだけど」
だから、バスケ部員はこちらの敵に回ってはいけないんだゾ。
と、釘を刺したつもり。
勢い、永田会長を巻き込んでしまった。こう言う時、思うのだ。小細工するには限界がある。策に溺れて、結果のっぴきならない事態を招いてはいけない。それを、桐生の一件で学んだ。
「てことは、まだ、どっちもどうなるか分かんないんだね」
桂木はまた1つたこ焼きをツマみながら、自身に言い聞かせるように頷いた。
「もし右川が会長になったら、当然、沢村は3役に入るよね?」
俺は黙り込んだまま、何も答えなかった。それに浅枝が業を煮やして、
「先輩は当然ですよ。そうじゃないと、あたしの作業だって流れませんから」
「てことは、浅枝さんも確実?」
そういう口ぶりに、俺にも聞こえたゾ。
俺は黙って無駄な紙を手元に引き寄せた。浅枝は、無言でゴマかした俺に向かってぷうっと膨れて見せながら、「いいですよぉ~。どうせ放課後は、あっちが終わるまでヒマですからぁ。あたし、やってあげてもいですよぉ~」
死ぬほど忙しい目に合わせてやる。
だから、それ以上は喋るな。
そんな警戒を込めて浅枝と目線を繋いでいるのだが、浅枝は何の躊躇もなく、「阿木先輩も残る事は確実ですよね。これで4人。最後の1人は来年の新入生かな」と、無邪気にブチ上げた。
……まぁ、その通りだ。
「あの右川が真面目にやるとは思えないんだよね。てことは、実務は沢村って事だよね?松下さんみたいに〝名〟より〝実〟を取るって感じ?そういうの、何て言うんだっけ?ほら、歴史で」
院政?摂関政治?桂木は、日本史で出てくる、そのあたりを言いたいらしい。何でもない質問を投げ掛けて、何が何でも俺の口から情報を引き出したいと、そんな思惑も仄見える。
「で」
桂木は、より一層、身を乗り出した。
「沢村が立候補した場合は?永田会長のバックアップで圧倒的勝利。間違いなしでしょ?」
桂木は上手いと思う。黙りこんだ俺に向かって、立て続けに問いただして突破口を企み、それがムダだと分かると今度は美味しい言葉を並べてプライドをくすぐる。一瞬、堕ちそうになる。
「その場合、右川のポジションってどうなるの?」
俺は、考える振りを通り越して、寝た振りを決め込んだ。
正直、答えに困る。
実の所、何も考えていない。というか、右川にふさわしい役割は何一つ無い。
右川を利用して2大勢力を遠ざける。ただそれだけの当て馬と取られても仕方ないのだ。人を侮辱した扱いだと、右川本人に責められても文句は言えない。
永田会長とも阿木とも最高にうまくいってる今、俺が立候補するのに何の障害もなかった。やれる自信もある。
覚悟に見通しがつかない理由は、ただ1つ、個人的な〝意地〟、それだけ。
〝じゃ、帰るね♪〟とばかりに、あいつの思惑通りに収まってしまうから。
そうなりたくないばっかりに。
〝最初で最後の俺の頼み事だ!〟
今となっては、あれが最初だ。何であんなこと言っちゃったんだろう。
右川のように無情に、あれ止めた♪と、気軽に言えればこんなに悩むことないのに。
「腹減った。ちょっと出てくる」
俺は生徒会室を出た。
桂木の話術に何の盾も持たない浅枝が、また立て続けに、ノロケ始める事を……ただただ、祈る。

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