元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「どうやら、貴族のお偉いさん方がお前さんの人気っぷりに負けたらしいな」

ライナーさんが硝煙で汚れた頬を拭い、にっと笑う。

「クローゼ元帥も協力してくれたのでしょう。これ以上、軍を動かさないように。軍が動けば、市民が犠牲になる。そうすれば門閥貴族たちへの反感は増すばかりですから」

ベルツ参謀は素早く考察を述べた。

その言葉を裏付けるように、広場に集まった兵士たちは穏やかに市民を説得して解散させ、バリケードの外はすぐに静かになった。

陸軍がヴェルナー艦隊と衝突することもなく、事態は急速に終わりに向かっているかに見えた。

「帰ってからが問題だ。俺はいったいどうなる」

レオンハルト様がバリケードをどかしながらぼやいた。

「しばらく退役は無理だろ。前線から退いて、貴族たちと政治をやるか?」

「嫌だね。俺は陸には合わない。いつでも好きな時に海に出られる身分でいたいものだ」

ライナーさんとのやりとりを聞いて、ベルツ参謀が笑いをこらえるような表情を浮かべる。

とにかく、一見落着……と思った瞬間。バリケードを解除し、ドアを開けたライナーさんが顔を歪めた。

「手を上げてください、みなさん」

ドアの外から現れたのは兵士たちではなく、ヴェルナー艦隊の一員だった人物。灰色の目と髪を持つ、クリストフだった。

< 193 / 210 >

この作品をシェア

pagetop