元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

こうして私は人生初の戦艦に、明日乗り込むことになった。胸いっぱいの不安と一緒に。それでも表面上はそれを隠し、姉上に笑いかける。

「無事生還できるよう、祈っていてくださいね」

両国の総力をかけた戦いに赴かねばならない私の手をとり、少し背の低い姉が零れそうな瞳で私を見つめる。メイドがお茶の用意をするために出ていったのを確認して、彼女は口を開いた。

「本当に行くつもりなの? あなた、本当は女の子なのよ?」

もし父上が聞いていたら、姉上のことを平手打ちしただろう。それだけ、この屋敷では私を女扱いすることは禁忌とされている。

言葉を失う私と対照的に、普段は無口な姉がいつになく饒舌になる。

「こんなのひどいわ。今のような後方勤務ならともかく、戦艦に乗るだなんて。周りは男の人ばかりなのよ。ルカがもし女だってバレたら、ひどいことになるわ」

「大丈夫ですよ」

「大丈夫なものですか。陸を離れた男ばかりの戦艦の中で、彼らは若い情熱を持て余しているに違いないわ。ルカが野蛮な軍人たちの慰み者にされるなんて、私耐えられない」

姉上は顔を覆って泣きだす。

「あのね……」

泣きたいのはこっちだよ。姉上は文字通りの箱入り娘で、世間とあまり接触がない。いつか訪れる嫁入りの日に必要な子作りの知識だけが独り歩きし、恐ろしい妄想を生んでしまっているみたい。

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