【完】こちら王宮学園生徒会執行部
左右のどちらから見ても、同じデザインのスクールバッグ。
そのうちの開けない方のポケットに、いつみが財布を仕込んでいて。
「普段あいつは使う方だけ目印でストラップを付けてある。
……が、財布が入ってないかといきなり問われたら、とっさに両方開けるだろ?」
「まあ、たしかに調べるわな」
「そのときに財布が出てきたら、どっち側から出てきたのかなんて意識してねえんだよ。
それを狙って、政界の人間が動いたことに気づいた時から仕込んでおいた」
「お前……今までよく気づかれなかったな」
うっかり南々瀬ちゃんが反対側のファスナーを開けてたら、とっくに気づかれてたわけで。
すげえ偶然、と驚く俺に対して、「南々瀬だから通用したんだよ」と一言。
南々瀬ちゃんは基本的に几帳面。
「間違いなく開けないのを分かってた」とまで言い張るんだから、大したものだ。
「でもこれ、南々先輩が偶然スクールバッグを持ってたから通用した話ですよね?」
「ああ。でも南々瀬が1日のほとんどを過ごすのは学校だろ?
政界の人間にもし狙われるとしたら、俺のいない時だ。……なら、確実に私物のバッグよりもスクールバッグに仕込んだ方が成功率が高い」
私物だとすぐにバレてただろうしな、とつぶやくいつみ。
そこまで計算してたんだから、本気でこいつは侮れない。……先読みしすぎだろ。
「で、どうすんの。
財布にまさかGPSでも仕込んであるわけ?」
怪訝そうな顔で口を開いたのは、ずっと黙って成り行きを見ていた夕陽で。
「いや?」と軽く返したいつみは、まるで何もなかったかのように椅子に座って足を組んだ。
「財布だけならまだしも、中にはカードまで入ってる。……となれば、あいつはそれを持って帰って来るしかない。
だから明日の午前中、授業をサボってもいいのを理由に、俺の講義中に帰ってくる」
彼女はいつみの大学の講義の時間を把握してる。
だから確実に家にいない時間を、ちゃんとわかってる。