【完】こちら王宮学園生徒会執行部
綺麗な指先が直に触れる感触に気づいて慌てて声を上げるけれど、いつみ先輩は「ん?」と首をかしげるだけ。
間違いなく、わたしの反応を見て楽しんでる。
「どこ触って、っ……」
昨日だって、お風呂から上がって寛いでいたらキスされて、そのまま流されてしまった。
だめだと首を横に振ると、先輩は小さく笑って。
「……絶対、ほかの男には流されんなよ」
首筋に顔を寄せて、ちりっと軽い痛みとともにそこへ痕を残す。
それからわたしの額にくちづけを落とし、あっさり離れたかと思うと。
「風呂入ってくる」
何事もなかったかのようにパソコンをぱたんと閉じて、お風呂に行ってしまった。
「心臓に悪い……」
取り残されたソファの上で、そうつぶやくけど。
なんだか釈然としないのは、やけに今日彼が"らしくない"からだろうか。
わたしが本気で嫌がってないことくらい、彼は当たり前に知っていて。
押し切ることは、いくらだって出来るはず。……というか、今までも散々押し切られてきた。
抵抗はしてたけど、なんだかんだ一緒にお風呂に入ることになるんだろうな、なんて思ってたのに。
なんだか不完全燃焼になってしまったけれど、これも彼の作戦のうちなんだろうか、と。
そんなふざけたことを考えていれば、不意にスマホが振動した。
わたしのじゃなくて、テーブルに置きっぱなしの彼のスマホ。
思わず画面を見やれば、通知で表示されていたメッセージ。その内容に一瞬息を呑む。
それから、見なかったことにしようと決めたけれど。
その日から、ぴたり、と。
まるで図ったかのように、彼がわたしにキス以上の触れ合いを求めてくることは、なくなった。