お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
走ってドアを開けて外へ出て、息を切らしながら足早に歩く。


歩きながら一つだけ分かった。
自分が彼を想い始めてたんだと。


「……バカ。今更何よ……」


今知ったって遅いじゃん。
彼女がいると確信したんだし。


サドで毒吐きますよと言った時、タイプだと喜んだ先輩を変だと思ったくせに。

あんなに受診に行く度に言い合ってばかりいたのに。
それに本人からも乳くさい女で、タイプでもないと言われたのに……。



(バカだ。思いきりバカ!)


自分を愚弄しながら歩いた。
失恋って言葉が頭に浮かび、恋にもなってない、と強がる。


私はただ、ドクターに優しい言葉をかけて欲しかっただけ。
子供見せたあの笑顔を自分にも向けて欲しいと思っただけだ。

エリナと呼び捨てにしてる人と同じように触れて、甘い言葉を囁いて欲しかった__。




「バカ……」


それを恋と言うんじゃない。


心の中でもう一人の自分に言われた。

恋だと認めると惨めな気がして、だから違うと声に出しただけだ。


私は彼に失恋したんだ。
好きですとも何とも言わないうちから。


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