お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「そんな訳にいきませんよ。私が飲んだビール代だし」


「大した金額じゃない」


「それでも、奢ってもらう理由がありません!」


私は別に彼女でも何でもないから。


「うるせーな、いいって別に」


「うるせーとか言わないで!」


もっと優しく話しかけてよ。
これでも私は女子なんだから。


「突っ掛かるなよ」


「誰も突っ掛かってなんか」


そう言いかけて口を閉じた。
ドクターの後ろに見える女性が、小さく笑うのが見えたから。


きゅっと唇を噛んでマスターにお勘定、と呟いた。


払わなくてもいいと言うならもういい。
それよりも早く、この店から出たい。


ドクターと彼女の側になんていたくない。
二人の雰囲気を感じたくない。


お金を手渡すと椅子から降りた。
逃げ出すように去ろうとした私をドクターの手が止めた。



「待てよ」


ぎゅっと握られた腕が痛んで、離してと言いながら振り向く。
ドクターの顔は相変わらず仏頂面に近くて、それを見たら堪らなくなって。



「先生は彼女と楽しく飲んでればいいでしょ!」


ばっと腕を振り解いて走りだした。

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