お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ドクターの勘違い
「転ぶぞ!」


ダン!と足を踏み下ろしたら大きな声が聞こえてビクついた。
盛り上がったアスファルトの上に置いたまま振り向くと、そこには息を切らしたドクターが立っていて__。



「あっ」


よそ見をした途端、足首がグニャリと曲がった。
フラついて木にぶつかり、ドスンと上半身を打ち付けてしまう。


「いったぁ〜」


今日何度目だよと思いたくなるツキの無さ。
突き放すように腕を伸ばし、街路樹に凭れ込んだ体を起こした。



「何やってんだ!気をつけろ!」


降り注いでくる罵声。
怒鳴った人は息を切らしながら近寄ってきて、私はその顔を呆然と見上げた。


「店から逃げ出したかと思えばこれか」


腕を引っ張りながら街路樹から離れる。
右足に力を入れた途端ズキッと軽い痛みが走り、ぎゅっと唇を噛んだ。


「何だよ」


どうして彼が此処にいるのか分からず、ポカンとしたまま振り返ると、その視線に気づいた彼が仏頂面で聞いてくる。


「何も」


そう言い返し、自分から腕を離した。
グキッとなった右足首は、大した痛みでもなく歩けそうだ。


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