お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「原さん、麻酔の準備をしてくれ」


「畏まりました」


保険証を預かった看護師さんの名前は原さんと言うらしい。
それはともかくとして、麻酔って何だ?


「あのー、麻酔というのは」


「ああ、あんたに使うに決まってるだろ」


「えっ!」


横たわってる体の顔だけをドクターに向ける。
口の悪い人は、またしても無遠慮にスカートを捲り、眉間にシワを寄せながらピンセットを手にした。


「この傷だと治療しながら暴れそうだからな」


そう呟いて貼り付けてるカットバンを剥がしだした。
ほぼ剥がれそうになっていた物は簡単に取り除けてあまり痛みも感じなかった。


「それにしてもこの膝、水でも溜まってるんじゃね?」


「えっ!?」


「違うか、単に太いだけか」


グサッとくるような言葉を平気で吐き、浸出液もかなり出てるな…と見つめてる。


「傷口を水で洗ったか?」


「誰がそんな怖いことを」


絶対に痛いじゃないの。


「バカか、傷も洗わずにいたら雑菌が繁殖して破傷風になるぞ」


「破傷風?」


聞き慣れない病名を聞き直すと、最悪の場合と言われた。

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