お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「そんなの…人命救助が先決だから当然ですよ」


私は歩いても帰れるケガ。
命以上に重く思われることはない。


「そうだな」


だからと言って、アッサリと答えられるのもな。
自分の決意が無駄になって、こっちはガッカリだったんだけど。


(あんなチャンスは二度と無いと思うのに……)


そう思ったら歯痒い。
きゅっと唇を噛むと一瞬だけドクターとの会話に間が空いて、お互い何も言わずに見つめ合った。


ドキン!と胸が弾み、またしても顔が熱くなりそう。


これ以上彼を見てたらダメだ。
もっと彼が好きになって踏ん切りがつかなくなる……。


スルッ…とさり気なく視線を外した。
目を伏せたまま俯くと、首の後ろが熱いな…と感じた。


そこに後ろから足音が聞こえた。
隣に座ってたドクターが立ち上がり、やって来る人を迎えるかのように向き直った。



「エリナ」


(えっ!?)



顔を跳ね上げて振り返る。

バーで会った女性が、ハイネックのセーターとフレアスカートを身に付けて立ってて、そのスレンダーな姿を目に入れると、ドクッと鈍い心音が響いた………。



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