お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「どうしたの?」


浮かない顔つきね、と声を掛けられた。
振り向くと幼馴染のように育った相手が立っている。


「おばさんが心配してたわよ。家に居るのに夕食も食べに来ないって」


もう直ぐ自分の親になるというのに相変わらず「おばさん」か。

頭ではそう思うが、敢えて口にすることでもない。


「電話が入る予定だから待ってるんだ」


そう答えると、ふーん…と鼻を鳴らすように呟き、ストンと向かい側に腰掛けた。


「そっちは?」


「え?」


「待ってるんだろ。帰りを」


新聞を読んでいる目線を向けずに聞いた。


「そうよ。なかなか帰って来ないから退屈で」


「あいつは仕事熱心だからな」


新聞紙を閉じてみると、向かい側にいる彼女は、そうなの…と言って肩を竦める。


「彼がこの病院を継げば良かったのに」


「何だよ。俺に病院勤務に戻れとでも言うのか」


「そうは言わないけど、一人にされる時間が多過ぎて…」


「習い事でも何でもすればいいじゃねーか。あいつもきっと文句なんて言わないと思うし」


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