お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「私は彼と同じ時間を多く過ごしたいから、そういうのに時間を割くのは嫌なのよ」


「呆れた理屈だな」


そう言っているところへ電話が入った。
彼女は自分の手にしていたスマホの画面を確かめ、身を翻すようにして部屋を出て行く。



「……ゲンキンな奴だ」


嬉しそうに飛び跳ねる仕草を見遣って言った。
それよりもこっちの相手は一体何をやってるんだ。


「まさかとは思うが、またどこかを怪我してるんじゃないよな!?」


初対面からこっち、常にどこかに傷を作っている。

本人は不可抗力だとか時間がないとか叫んでいたけど、これだけ続くと流石に呆れると言うか気になる。


「早く掛けてこいよ。首がキリンになりそうだ」


椅子の肘掛けに凭れて息を大きく吐き出した。
なるべくイラッとしない様に新聞を読んで気を紛らせてたんだが。


「何やってんだ、全く!」


こんなことならあいつの電話番号を聞いておけば良かった。
多分、弟に聞けば分かる筈だが、今頃は彼女の相手で忙しいだろうし。


ジィーッとスマホを眺めていても仕様がない。
諦めて先に夕飯を済ませておくか。


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