お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
十分後、オフィスビルを出ると正面に見覚えのある車が止まってた。車種は詳しくないから分からないけど、ネイビーカラーの車だから間違いなくドクターのもの。



(アーメン)


キリスト教徒じゃないけど胸の中で十字を切る。
ゴクッと喉を鳴らしてウインドウをノックすれば、ウィーン…と音を立てて窓ガラスが下がっていく。


その隙間から仄かに香るシトラスミント。
スーッと鼻腔を擽る香りに癒されてたらドクターの不機嫌そうな声が聞こえた。


「さっさと乗れよ。寒いだろ!」


「は、はいっ!」


ひぃぃ〜!怖いっ!


やっぱり怒られた…と思いながら、助手席のシートに身を沈める。食事はしたのかと聞くもんだから、まだです…と答える、とフン!と鼻を鳴らして……



「食べに行くぞ」


そう言いながら、既にハンドルを切ってる。


食べに行くのはいいんだけど、そもそも送られることになったのは、ドクターとあの美女二人の関係を聞く為でもあったのに。

そういうのは何処かに流されてしまい、連れて来られたのは小洒落たレストランで……



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