お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
(まさかとは思うけど、フランス料理のフルコースは出ないよね!?)


持ち合わせは少ないんだけどな……と不安を感じてたら、ドクターはさっさと出ろ!と追い立てる。


「は…はい」


少しは遠慮しようかと思ったけど止めた。
余計なことを言って、機嫌を損ねるのがイヤだから。


(ここは言うことを聞いておく方がいい。折角連れて来て貰ったんだし)


勿論ドクターの奢りだよね、と祈りながら店の中に入った。

店内は和モダンな雰囲気で設えてあり、壁には無造作に漆喰が塗られてる。梁の上からは間接照明のライトが注ぎ、それが壁に当たり独特な影を作り出してた。



(落ち着いた感じのお店だなぁ。如何にも大人が通う様な雰囲気)


自分は店に馴染んでないな…と思った。
けれど、先を歩く人は似合い過ぎてて、ニクいなと羨ましく思うくらいで。



思わずシュン…と肩を落とす。
こういう場違いな所では、ドクターとの差を感じる。


こんな素敵なお店が似合う人が私の想いに答えてくれる訳もないんだ…と思うと、何も言わないでいた方が平穏無事でいいような気もするんだけど……


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