お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「……あれは、靖のフィアンセ。桜田英里紗(さくらだ えりさ)と言うんだ」


「藤田くんのフィアンセ?」


何だ、やっぱりそうか……。

頭の中でそう呟き、ドクターの顔色を窺う。
はっきり確かめてはないが、彼女が外科部長の娘だとしたら、同級生達が話してた噂は本当ですか?と問い合わせたくなった。


だけど__


「何だよ」


不機嫌そうに睨むもんだから止めた。
図星を突くのも何だか悪い気がして。


「…いいえ、何でもないです…」


モヤッと感が胸の中に残ったまま、テーブルに運ばれてきたピザを齧る。

生地は薄くてサクッとした食感で、モッツァレラチーズはトロッとしてて美味しい筈なんだけど……



(何だろ…味がしない…)


ドクターのせいですよ、と言ったら憤慨するかな。
それとも、知るか!と言って無視される?


(多分……後者だろうな…)


私は乳くさい女だしね。


黙々とピザを口に運んで飲み込む。美味しい筈のピザは噛んでも噛んでも喉通りが悪くて、それでも何とか完食はした。




「ご馳走様でした」


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