お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
返事は一度だけでいいんだ、と言いたくなる。
俺の反応が面白いのか、マスターは更に話し続けた。


「あの子って髪の毛が短いでしょ。少し酔ってくると首筋が紅色に染まって可愛んだよね。
唇も色っぽいし、カウンター越しに眺めてると何となくドキッとすると言うかさ。

あれは一緒に飲んでる方も目の毒だろうよ。
まあ、相手は仕事も絡んでるみたいだし、おいそれと手も出せないだろうけどね」


お喋りが過ぎるぞ。
何なんだその煽り方は。



「…はい、お代わり」


トン…と二杯目の水割りが置かれ、そのグラスをがっ!と握って口にする。
麦芽やトウモロコシで作られたウイスキーは、その芳醇な香りと共に喉の奥へと通り抜けていく。



(くそ…面白くない…)


不貞腐れるようにグラスを口から離して置いた。
俺の表情が曇ってたからなのか、マスターの話も止まった。


彼の言っていた相手は、いつか聞いたことのある「先輩」だろう。
仕事上で裏切られた…と言っていたが、切れ者でオフィス内でも一目置かれてるような感じの人間なのか。


男か。……それとも女?

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