お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
女が波南に手を出すとはあり得ないから、やはりその先輩というのは男か?


そもそもあのオフィスには男性がどの位いるんだ。
あいつは仕事のことは企業秘密が多いから話せないと言って、あまり教えてもくれないが。


(今夜、問い詰めてやる!)


腕の中にいる時に…と密かな愉しみを見つけだした時だ。


「いらっしゃい!」


マスターの声が跳ね上がった。
その声に弾かれるように振り向けば、白い息を吐きながら近づいて来る者がいて__。




「ごめんなさーい。遅くなって」


走ってきたのか、はぁはぁ…と軽く呼吸を乱している。


「いや」


俺は余裕があるように迎え入れ、それを見たマスターが。


「待ち人って彼女か!?」


驚いたような声を上げて聞いてきた。
俺はカウンターの中に立つ相手を振り返り、そうだ、と言って教えた。


「彼女なんだ。この間から付き合ってる」


そう言いながら腰に手を回すと息を切らせている彼女は、一瞬息を吸い込んだ。



「へ…へぇー……」


マスターの声は辛うじて平静を装ったように聞こえた。
俺は同時に勝ち誇ったような気分がした。


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