お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「でも、痛いんですよね?」


「そりゃな、だから麻酔するんだろ」


(あんた絶対に麻酔が好きなだけでしょー!!)


胸の中で大絶叫をしたところで治療をして貰わないと出血は治らない。
ここは一丁痛いのを我慢してドクターに身を委ねるしかないんだ。


「あの〜、出来るだけ優しく」


「ああ?!何か言ったか?」


薄いゴム手袋をはめながらドクターは問答無用な感じで聞き返した。


「いいえ!何でもありません!」


背筋をピンと伸ばして笑い返すと、フ…と笑みを見せるドクターにぼうっとして。



(ヤバい。見惚れてる場合じゃなかった)


私の前に座り直したドクターは、右手を小さな四角い台の上に置けと言った。

動かすなよ、と囁いてから傷口の周囲をアルコールのニオイがする脱脂綿で拭き取り、昨日と同じく茶色の小瓶からイソジン色に染まった丸い綿を取り出した。


心臓よりも高い位置に手を置いたからだろうか、タオルを除けても出血はない。
何だ、最初からそうすれば良かったんだ…と思い、さすがは医者だなぁ感心してた。


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