気付けば、君の腕の中。


靴を履かずに家を飛び出すと、目の前に凜くんがいた。

何を考えているのか分からない表情で、凜くんは携帯の画面を眺めていたけれど、飛び出してきたあたしに視線を向けた。


目を見開かせて、ゆっくりと腕を広げた彼が、スローモーションになって映った。



「……やっぱり泣いてたんだ」


凜くんの指先があたしの目の縁に触れた。


「俺でよければ話してよ」


彼の優しい声だけが、あたしの世界に響く。

言ってはいけない言葉が、認めてはいけない気持ちが飛び出しそうになったけれど…。



「“友達”なんだから」



その一言で、あたしの理性は戻ってきてくれた。

君の腕の中で、君の言葉に傷つくあたしを、そっと心の奥に閉じ込めた。


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