雨の降る世界で私が愛したのは

 女性はまだ一凛と話したそうにしていたが、席で待つ彼氏を気にかけ「応援しています」と言うと席に戻っていった。

 なんとなく肩で息をつくと一凛は背後に人の気配を感じ振り向く。

「よぉ」

 依吹が立っていた。

 グレーのTシャツに下は白いハーフパンツ、足元はなんとビーサンだった。

 この店の誰よりもラフな格好の依吹は「あんま変わってないな」と言いながら、目の前の椅子に座った。

 すぐに店員を呼ぶとメニューも見ずに餃子とチャーハンのセットを注文する。

 一凛も慌ててメニューを開き、目に飛び込んできたエビのチリソースセットを注文した。

「エビチリなんてリッチだな」

 水を飲みながら依吹は言った。

 依吹はお金がないんだ。

 改めて目の前の依吹を眺める。

 顔の肉が削ぎ落とされ、シャープな大人の男の顔つきになっていたが、依吹もさほど昔と変わっていなかった。

 水の入ったプラスチックのコップを持つ左手に指輪ははめられていない。

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