雨の降る世界で私が愛したのは


 いつだったかほのかが結婚指輪をはめる男は少数派だと言っていたが、依吹はいろんな理由をつけて指輪を外すような男にはなっていないと信じたい。

 もっとも千円もしないエビチリセットをリッチだと言うくらいだから女性にモテまくっているわけでないことだけは確かだ。

 お金はもっていなさそうだが、指の爪は短く切られており全体的にさっぱりとした清潔感が漂っているので一凛はほっとする。

「一凛先生か、一凛も立派になったもんだな」

 やはりさっきの女子大生とのやりとりを聞いていたのだ。

 依吹の言い方に嫌味や卑屈さがなかったので、さらりと一凛は訊ねる。

「依吹は仕事なにしてるの?」

「研究」

 依吹は短く応える。

「研究?なんの?」

「遺伝子」

 へぇ、と一凛は椅子の背もたれに寄りかかった。

 意外なようで、でも依吹らしいとも思った。

「なんだよそのへぇって」

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