雨の降る世界で私が愛したのは


 英国帰りのやり手の怖そうな女が来たと園長は依吹に言ったそうだ。

「ひどい、わたしそんな風に見えるかな」

 少しだか一凛は本心から傷ついた。

「一凛の肩書きだけでそういう先入観をもっちゃったんだろ。それに」

 依吹はテーブルの上の会計を真ん中の位置に戻した。

 一凛がこっそり自分の手に取りやすいところに移動させていたものだった。

「こんなことしなくていいから。つか俺、そんなボンビーに見えるか」

 くくっと、依吹は喉を鳴らして笑う。

 依吹がいる研究室は立派な研究室だった。

 立派なんて言葉はおかしいかもしれないが、少なくともエビチリセットが食べれないということはない。

「贅沢に興味がないんだよ。着るものとかなんでもいいし、正直食べ物もまずくなければそれでいい。人間だけだよこんなに欲だらけなのはさ。動物たちを見ろよ、欲なんてないからさ、きれいだよな」

 ああ、依吹は変わっていないな。



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