雨の降る世界で私が愛したのは


 少なくとも他の動物たちは長く生きるためにではなく、今を生きるために生きている。

 その瞬間瞬間を生きるのだ。

 襲ってくる外敵に細心の注意を払いながら飢えを満たす食物を探す。

 タカは大空を舞いながら、クジラは青い海を突き進みながら、ライオンは草原の風をきりながら、今を生きるために無心になる。

 それは言葉では表現しがたく、視、聴、触、味、嗅、すべての五感が一つになったかと思おうと一点の強い光に包まれる。

 記憶を失ったハルであったが、ふとした時自分の中にある本当にわずかではあるが、その記憶の欠片を感じることがあった。

 それは過去に自分がジャングルに生きていたことを証明するものなのだが、それよりもハルにとっては喪失感の方が大きかった。

 喪失感はハルを絶望させ、研ぎ澄まされたものをすべて鈍くさせる檻の中での生活はハルには居心地がよかった。

 長い寿命を与えられたここでの生活には、それは必要不可欠にも思えた。

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