雨の降る世界で私が愛したのは


 そんなハルの前に現れたのが一凛だった。 

 依吹にリンゴをぶつけたのも、依吹と颯太の喧嘩を制したのも親が娘を守るのと同じ心境なのだとハルは思った。

 そう思わなければいけないと頑なに自分に言い聞かせた。

 人間以外の動物が人間に恋心を抱くことは、滑稽で微笑ましいことか、または危険で排除すべきもののどちらかだった。

 それ以外はない。

 またハルには説明のつかない強い思いがあった。

『一凛に近づいてはいけない』

 それは魂の叫びにも近かった。

「俺に近づくな」そう言ってハルは一凛を遠ざけようとした。



 久しぶりに見る一凛は美しい大人の女性に成長していた。

 外見だけではなく一凛のその聡明さにハルは感動した。

 もうあの頃の幼い一凛ではない。

 心配をすることはないのかも知れない。

 一凛は充分大人になっている。

 二人を隔てる檻がなくなったとしても見えない檻があることを一凛は分かっているはずだ。


< 132 / 361 >

この作品をシェア

pagetop