雨の降る世界で私が愛したのは


 外に出ると激しい雨だった。

 別に急ぐ用事もないので雨が弱まるのを事務所の軒先で待つことにした。

 確かにトンゴは生きられてあと数年だろう。

 今いる子どものゴリラは二頭ともメスだった。

 トンゴがいなくなるとまた別のオスのゴリラが必要になる。

 ゴリラは他の動物に比べて値段が高く、一頭一億はくだらない。

 ハルは瀕死の状態で保護されこの動物園に連れてこられたが、今はその時の傷は見る影もなく、ハルに値段をつけるならば相当な金額になるだろう。

 それをみすみす無駄にして新しいオスのゴリラを買うなど馬鹿らしいと誰もが思うだろう。

 それに、と一凛は思う。

 それにハルにとってもゴリラの社会に戻り群れのリーダーとして生活する方がいいに決まっている。

 野生のゴリラの強いオスは自分の群れを作り、それ以外はオスだけの群れを作ったり単独で行動したりする。


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