雨の降る世界で私が愛したのは


 他にメスのゴリラが三頭と子どものゴリラが二頭いるが体の大きなオスがいないのは魅力に欠けるのか、ゴリラの檻の前はライオンやゾウなどの他の大型動物たちと比べて人が少なかった。

 普通のオスのゴリラよりも体の大きなハルだったらその迫力でさぞかし動物園に来るお客さんたちを喜ばせることだろう。

 一凛も息を呑むほどハルは美しいオスのゴリラなのだ。

 メスのゴリラもハルだったらすんなりと新しいリーダーとして受け入れるだろう。

 メスは体の大きな強いオスを好む。

 ハルは申し分なかった。

「せっかく一凛先生という専門家がいらっしゃるんですから、ちょっと手伝ってはくれませんかね?」

「ハルの移動をですか?」

 園長はうん、うんとうなずいた。

「ちょっと考えさえてください。わたしもいろいろと他に仕事があるもので」

 事務所を出て行こうとする一凛に「是非とも」と園長は言葉をかける。



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