雨の降る世界で私が愛したのは
猫は地面に落ちたハムに駆け寄ると
「うわぁ、すげぇ、うまぁい」
とむにゃむにゃ言いながらあっという間に平らげる。
食べ終わると依吹をまっすぐに見上げ言った。
「もおっと」
依吹は次にチーズを投げ、そして次はツナを、依吹のサンドイッチに挟まっているのが野菜だけになると、猫は満足したのか毛繕いを始めた。
「まあ、お礼も言わずに」
一凛がそう言うと依吹は笑った。
「猫には感謝って気持ちはないんだよ。好きとか嫌いはあるみたいだけど。人間でいうと猫は二歳児ぐらいの知能らしい。赤ちゃんもお母さんからおっぱいもらって、嬉しいとは感じても感謝する気持ちはまだないだろ。感謝ってある意味人間だけが持つ特殊な感情なのかも知れないな。それにしても似てるよな」
「似てる?」
「一凛って猫に」
一凛は目の前の猫をまじまじと見る。